『宇都宮・海渡 丸』 出発しました!!−市民の目線で第二次司法改革へ−

『宇都宮・海渡 丸』 出発しました!!
−市民の目線で第二次司法改革へ−


 2010年4月1日、宇都宮健児日弁連新会長・海渡雄一日弁連新事務総長が就任されました。
 今般、4月9日の日弁連正副会長会(会長・副会長の会議)において、『2010年度日弁連会務執行方針』が決定されましたので、以下、ご紹介致します。

 また、最新の『弁政連NEWS』20号(2010年4月15日付)に掲載された「宇都宮健児新会長の挨拶」及び2010年4月8日(木)付の朝日新聞朝刊(15面)に掲載された、『インタビュー オピニオン−弱者が使える司法 日弁連会長・宇都宮健児さん』記事も、以下ご紹介致します。

 なお、4月15日(木)17時30分〜弁護士会館2階講堂「クレオ」において、日弁連役員(宇都宮健児会長、若旅一夫副会長、江藤洋一副会長、栃木敏明副会長、高橋理一郎副会長、高木光春副会長、金子武嗣副会長、道上 明 副会長、齋藤 勉 副会長、錦織正二副会長、田邉宜克副会長、我妻 崇 副会長、向井 諭 副会長、朝田啓祐副会長、海渡雄一事務総長)就任披露宴が行われます。



【2010年度会務執行方針】

●はじめに−市民の目線で第二次司法改革へ−●

「司法制度改革審議会意見書」は21世紀の司法に期待される役割について、「紛争の解決を通じて、予測可能で透明性が高く公正なルールを設定し、ルール違反を的確にチェックするとともに、権利・自由を侵害された者に対し適切かつ迅速な救済をもたらすものでなければならない」とし、また、「国民にとって、より利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのある司法とするため、国民の司法へのアクセスを拡充する」ものとした。この答申から約10年を経て、司法の役割が期待どおりに実現されたかどうかを検証しなければならない。

たとえば、リーマンショックによる世界不況も相まって、規制緩和政策による格差が拡大し、貧困が広がっている。今や労働者のうち3人に1人以上が非正規労働者となっている。このような貧困層、派遣労働者などの不安定雇用層、外国人や障がい者などに司法による保護が及んでいるとは到底いえない実情にある。日弁連は貧困問題、不安定雇用問題に正面から取り組み、法律扶助制度の抜本的な拡大を求め、社会的な少数者を含むすべての市民の司法に対する信頼をより一層高めなければならない。

市民が司法にアクセスしやすくするための民事訴訟・行政訴訟などの裁判制度改革は急務となっている。

弁護士人口の急増にもかかわらず、裁判官と検察官の増加は限定的で、多くの裁判所支部で労働審判や行政訴訟などを審理することができず、また常勤の裁判官のいない支部が48にも及んでいる。

法曹養成制度については、法曹志望者の数が減少し続けているという危機的な状況がある。意欲ある者が法曹をめざせる法曹養成制度を確立することは、21世紀の司法が生き生きとその役割を果たし、市民の信頼を獲得していく上でも最大の緊急課題となっている。

司法改革によって導入された裁判員制度と相次いで明らかになった足利事件、布川事件などの深刻な誤判事件は、市民の刑事司法制度のあり方に対する関心を飛躍的に高めた。日弁連は、裁判員制度の定着とその実態の検証に基づく制度改善に努め、また、えん罪の起きない刑事司法をめざすため、取調べの可視化、国選弁護、国選付添人制度のさらなる拡充、証拠開示の拡大、人質司法の打破などに取り組む必要がある。

2008年の自由権規約委員会の総括所見をはじめとする国際人権諸機関からの相次ぐ勧告に応え、その勧告内容の実現に努めるとともに、政府から独立した国内人権機関の設立、個人通報制度の導入などを通じ、国際水準に沿った人権保障システムの刷新をめざす必要がある。

2001年「司法制度改革審議会意見書」に基づき、この間取り組まれてきた司法改革を「第一次司法改革」と位置づけるならば、私たちは、これをさらに検証・発展させ、以下に示すような取組みを「第二次司法改革」として位置づけ、この実現に全力で取り組む。

●第1 市民の司法に対する信頼を確立する●

1 貧困問題対策本部の立ち上げ
貧困と人権に関する委員会を改組し、貧困問題対策本部を立ち上げ、実践的に生活保護と労働相談などの活動を全国で実施する。

また、派遣法改正などの労働法制や生活保護制度の改善、自殺対策などの貧困対策のための制度改革に全力で取り組む。

2 司法のセーフティーネットである法律扶助の飛躍的拡大

経済情勢の悪化に伴う市民生活の困窮が広がる時代にあって、消費者・高齢者・障がい者・雇用労働・家事・外国人・少年・貧困など、幅広い分野で、行政手続への拡大を図るなど法律扶助の飛躍的拡充を求めるとともに、償還免除対象の拡大、さらには給付・負担金制の実現を求める。また、日本司法支援センターとの連携を図り、日弁連と弁護士会が2009年度に約16億9000万円を支払っている日弁連委託援助事業の本来事業化を求める活動について弁護士会全体での取組みを進め、また市民運動との連携を模索する。

3 市民に対する法的サービス提供のための活動の充実

日弁連は貧困対策だけでなく、中小企業支援、高齢者支援、消費者被害対策、犯罪被害者支援など、幅広い市民の法的ニーズに応えるための法的サービス提供のための諸活動を充実させる。

4 司法アクセスに関する広報活動の強化

日弁連の行っている市民のための法的サービス提供の諸活動や、弁護士の業務内容などについての広報活動を、IT利用など費用の工夫をしつつ飛躍的に強化する。そして弁護士会のこのような活動に対する市民の支持を広げ、司法と弁護士会に対する市民の信頼の確立に全力を挙げる。

5 裁判所と裁判官制度等の改革

裁判所へのアクセスの拡充は司法改革の柱をなすものである。法の支配の確立と司法アクセスの拡充のため、司法予算そのものの飛躍的拡大と裁判官制度と検察官制度の改革を進め、地域司法の充実のために裁判官・検察官のいない裁判所・検察庁支部をなくし、裁判官・検察官の大幅増員を求める活動を市民、自治体と連携して全国で展開する。弁護士任官や非常勤裁判官制度についても、さらなる推進と制度の改善をめざす。

6 弁護士研修の充実

大量増員による弁護士のプレゼンスの増大と、他方、弁護士の質の低下が問題視される中、市民の求める多様な法的サービスに十分応えることが、我々弁護士に求められている。

そのために弁護士倫理、専門性研修等の弁護士研修を更に充実させる。

7 司法過疎・偏在の解消

司法過疎・偏在の解消のため、スタッフ弁護士・ひまわり公設弁護士の支援、定着支援制度等の総合的な施策をさらに充実させる。

8 市民がアクセスしやすい民事・行政裁判制度等への改革

民法(債権法)の改正にあたって、消費者の権利が守られ、市民にわかりやすく、利用しやすい「市民のための民法」の実現をめざす。民事審判制度の導入、提訴手数料の低・定額化、証拠収集手段の拡充、集合訴訟制度の拡大など、市民の司法へのアクセスを改善するための制度改革に取り組む。

いきすぎた裁量行政を許さず、司法の行政に対するチェック機能の強化のため、市民に広く門戸の開かれた行政手続、行政訴訟制度、行政機関情報公開法の改革に取り組む。納税者の権利を明確化した国税通則法の改正に取り組む。

また、労働事件・知的財産権・独占禁止法・家事事件その他の裁判制度の改善と改革に取り組む。

9 隣接士業問題への的確な対応

隣接士業と弁護士の関係については、弁護士が法律事務を独占し、あらゆる法的ニーズに応える責任があること、市民ないし利用者にとってどのような制度が最も利益にかなうかとの視点から政策を組み立てる必要がある。

そのような視点から、認定司法書士の制約なき相談権、行政書士の行政不服審査手続における一般的な代理権などの、隣接士業によるさらなる権限拡大要求は、市民ないし利用者の利益に沿うものではなく、これに反対する。

10 国際交流活動の促進など

国際化時代を迎える司法の中で、国際交流活動、国際人権活動を担う人材を育成するため、他国の弁護士会や国際法曹団体との交流をより一層促進する。また、外国法事務弁護士等にかかる新法人制度の法制化を受けて、会則・会規の適切かつ迅速な整備を行う。

●第2 意欲ある者が法曹をめざせる魅力ある法曹養成制度の確立● 

1 司法修習費用給費制維持緊急対策本部(仮称)の立ち上げ
法科大学院においては多額の経済的な負担が必要となっており、本年11月には司法修習生への給費制が廃止されようとしている。このような事情も1つの要因となって法曹志願者が減少し、適性試験受験者数(日弁連法務研究財団と大学入試センターの合計受験者数)を見ても、2004年の3.4万人から2009年の1.7万人に激減し、とりわけ社会人、非法学部出身者が減少している。経済的な理由で法曹への途を閉ざさず、安心して学習・修習に専念できるよう、後記3(1)のとおり、法科大学院生に対する奨学金制度の充実に取り組むとともに、司法修習生に対する給費制を維持するための諸活動に緊急に取り組むため理事会内対策本部を設置する。

2 法曹養成制度についての一貫した体制を構築する

法科大学院、司法試験、司法修習、継続研修という法曹養成のプロセスについて、法曹養成の中核とされている法科大学院を中心としつつ、それぞれの役割と相互の有機的関連を明確にした一貫した体制構築に努める。
 
法科大学院の教育内容の充実、全国適正配置の観点を踏まえ、法科大学院の定員削減等の問題に取り組む。
 
法科大学院修了生の現状の司法試験受験回数制限については、回数制限の趣旨、現状の合格率のもとで合理性があるかどうか、法科大学院の定数削減、教育充実に向けた改革、成績評価と修了認定の厳格化の進捗状況を検証しつつ検討する。
 
予備試験制度については、経済的事情などの理由により法科大学院を経由しえない者について法曹資格取得の途を確保するという制度趣旨に添った運用がなされるよう、法科大学院制度と調和を図りながら進めるべきである。
 
3 若手法曹サポートセンターの立ち上げ
法的サービス企画推進センターの後継組織として若手法曹サポートセンターを立ち上げ、また会内の関連機関とも連携し、若手弁護士自らの積極的参加を求めて、次のような諸課題に全力で取り組む。

法科大学院センターを中心に法科大学院生に対する奨学金制度の充実に取り組む。

法曹の資質の向上のため、法曹三者による集合研修の実施をめざし、また日弁連主催の司法修習前研修(事前研修)を拡大充実する。
 
司法修習終了後の弁護士としての経済的な自立のため新人弁護士の採用拡大と開業支援に取り組み、弁護士業務の多様化と活動分野の拡大を図り、その業務基盤のさらなる充実に努める。
 
4 業務基盤の充実
弁護士に対するさまざまな法的サービスの需要の充足と開拓を行い、弁護士の社会における活躍の場を質・量ともに飛躍的に拡大させ、弁護士という職業が若者にとって魅力あるものとなるよう努力する。企業・官庁・自治体・政策秘書などへの活動領域の拡大、CSR(企業の社会的責任)の推進、中小企業支援、高齢者支援さらに国際司法分野への人材登用などに取り組む。

5 法曹養成・法曹人口のあり方について検討を深め、市民の理解の得られる政策を提起する

市民に対し良質な法的サービスを提供することは、弁護士・弁護士会の責務である。法曹の質に関し、近時の法曹養成過程について次のような事態が生じている。

 1. 法曹をめざす有為な人材が減少している(法科大学院適性試験受験者数の減少)。
 2. 法科大学院修了生の中に実務修習を円滑に実施できる程度の能力が十分に身についていない者がみられる。
 3. 新人弁護士の一部についてOJT(実務を通じての研修)の機会が不足している。
 
このような実情を踏まえ、法曹養成・法曹人口のあり方について次のような検討を行い、法曹人口増加のペースダウンのため、市民の理解が得られる政策作りを早急に行う。
すなわち、日弁連は「適正な法曹人口は、何を基準としてこれを定めるべきか。その基準として考慮すべき対象と検討の方法」などについて、法曹人口問題検討会議に諮問し、その答申を受けた。新年度には、この答申を踏まえ、中長期的な視点に立った適正な法曹養成・法曹人口のあり方と今日の実情に見合った適切な法曹人口について検討するための機関を会内に設置し、市民の意見も聴きながら、会内議論を深める一方で、このような法曹養成の実情について市民の理解と支持を得るための広報等に取り組む。そしてまとめられた日弁連意見について関係各方面に働きかけて全力でその実現を図る。

●第3 えん罪の起きない刑事司法をめざして●

1 誤判原因の究明と取調べの全過程の録画(可視化)等の早期実現
志布志事件、氷見事件、足利事件、布川事件などの深刻な誤判・誤起訴事件が多数発生している原因を、政府から独立した第三者機関の手で徹底的に解明する。

とりわけ、裁判員制度が実施される中で、一部録画の問題性を市民の前に明らかにし、全過程の録画の必要性を強く訴え、全過程の録画の早期立法化に向けた取組みを強化する。

証拠リストの開示を突破口に全面的証拠開示の実現に努め、勾留代替制度の導入や保釈制度の改革、取調べ期間と時間の制限など、人質司法の打破のため全力で取り組む。

2 裁判員制度の定着と改善

市民が司法に参加する裁判員裁判2年目の経験を、裁判員本部と刑事関係委員会の連携のもとで蓄積し、制度の定着を図る。また、その問題点の分析を深め、裁判員制度の運用改善、守秘義務の範囲の限定と違反に対する罰則の撤廃に取り組むとともに、3年後検証時に提起すべき制度改革のポイントを明確化させるための作業に努める。

また、検察審査会法改正後の運用を見守り、必要な改善を提案する。

3 被疑者国選弁護制度を担い、さらなる拡大を求める

20年に及ぶ当番弁護士活動の成果の上に立って、2009年5月から拡大された被疑者国選弁護制度を確実に担い、さらに現状では日弁連の費用負担で実施されている制度対象外の被疑者弁護援助制度を改善し、被疑者が身体拘束されているすべての事件について、逮捕の直後から国公選弁護制度が適用されるよう法改正を求める。また、国選弁護事件の適正な報酬・費用を実現する。

4 全面的国選付添人制度の実現をめざす

身体拘束されたすべての少年事件を対象とする全面的国選付添人制度の実現を求め、まず被疑者国選弁護制度の対象犯罪と同一の範囲にまで国選付添人の対象事件を拡大する立法をめざす。制度実現までの間は、当番付添人制度の拡充と少年保護事件付添援助事業の強化を図り、弁護士の対応態勢、少年・刑事財政基金の整備などに努める。

5 刑事司法関連の立法課題への積極的な取組み

公訴時効制度の撤廃法案に対する反対、刑事被収容者処遇法施行5年目の見直し、仮釈放制度の改善と刑余者の社会復帰支援の充実など、刑事司法に関連する立法課題に関する日弁連意見の実現に取り組む。

●第4 人権保障システムの充実・発展のために●

1 人権のための行動宣言2009の実現
人権のための行動宣言2009に掲げられた諸課題の実現に取り組み、とりわけ高齢者・障がい者・子ども・外国人・男女共同参画・犯罪被害者・民事介入暴力の排除・貧困・環境など各分野の人権擁護活動の前進のために活動する。また、人権行動宣言の達成度の検証のための仕組みを考える。

2 消費者の権利救済

日弁連などの求めに応じて設置された消費者庁と消費者委員会の活動の強化、地方消費者行政の充実、消費者の権利救済の拡大などのために活動する。

3 両性の平等と男女共同参画

民法を改正し、選択的夫婦別姓制度の導入、非嫡出子相続分差別の解消、嫡出推定規定の改善に取り組む。また男女差別賃金の是正のため同一価値労働同一賃金の原則の法制化を図り、ひとり親家庭の支援充実に取り組む。

4 医療と環境

安全で質の高い医療、環境保護のための諸活動、地球温暖化対策による低炭素社会の実現、環境影響評価法の抜本的改正など、健康と地球環境を守る活動に取り組む。

5 外国人

定住外国人の地方参政権、公務就任における国籍条件を見直し、外国人に対する差別的取扱いを禁止する法制度の実現に努める。

6 国際人権機関からの勧告の実現

国際人権基準から乖離しているわが国の人権状況を改革するため、自由権規約委員会が2008年10月に発表した総括所見と勧告など、国連人権諸機関の勧告内容の実現に努める。死刑執行停止法を成立させ、死刑制度について国民的な議論を行う。

7 政府から独立した国内人権機関の早期設置と個人通報制度の実現

国連パリ原則に準拠し、政府から真に独立した国内人権機関の早期設立に取り組み、また自由権規約、女性差別撤廃条約の選択議定書など、国連人権条約に基づく個人通報制度の実現を強く求める。

8 憲法と平和

2008年人権擁護大会の宣言を踏まえ、憲法が保障する平和的生存権や憲法第9条の今日的意義を広める活動を行い、憲法改正問題に取り組む。
                                                 以上


 
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「市民の目線で第二次司法改革を」
日本弁護士連合会会長 宇都宮健児

『弁政連NEWS』APR.20号 より


 2010年度・2011年度の日弁連会長に就任するに当たり、皆様方にご挨拶申し上げます。

 新しい日弁連執行部は、「市民の目線で第二次司法改革」を基本方針として掲げます。改革の原点を見定めるには「弁護士は今、市民の身近にあって何をすることを求められているのか」を常に問い直すことが必要です。

 一つは、貧困と格差が拡大する社会における、弁護士の「社会生活上の医師」としての活動です。貧困問題対策本部を立ち上げて、生活保護や労働相談などの活動を全国的に推進します。このような活動を、幅広く継続的なものにするためには、弁護士の主体的取り組みとともに、民事法律扶助の拡充がぜひとも必要です。

 もう一つは、えん罪をなくすための刑事弁護人としての活動です。被疑者国選制度を担うとともに、全面的国選付添人制度の実現を目指します。取調べの全過程の可視化は、時機をを逸することなく早急に実現すべき課題です。裁判員裁判に取り組みつつ、被告人の弁護権・防御権を守る立場から検証し改革を図っていきます。

 拝金主義のはびこる世の中にあって、弱者の味方としてこのような仕事に情熱的に取り組む弁護士こそ、市民が求めてやまない弁護士像です。社会的・経済的弱者に光が当たる改革の担い手となる「人」をどう確保するかは、司法改革の根幹をなす問題です。

 ところがこの不況下に、給料なしで法律事務所に所属する「ノキ弁」、就職できなかった「即独弁護士」など、経済的に不安定な状況に置かれている新人弁護士が増えています。法科大学院で学ぶための奨学金で多額の債務を抱える者も少なくありません。これに加えて修習資金の貸与制が導入されれば、さらに重い負担がのしかかります。

 修習資金の貸与制は法曹資格を単なるビジネスのための個人的資格にしてしまい、改革の根幹を掘り崩す危険性を孕んでいます。合格率の低迷や新人弁護士の厳しい状況が知られるにつれて法曹志望者そのものが減りつつありますが、貸与制の導入は、この傾向にさらに拍車をかけることとなります。日弁連は、貸与制の導入阻止・給費制の維持を求める運動に取り組みます。

 皆様の力強いご指導・ご支援をお願い致します。




2010年4月8日(木)朝日新聞 朝刊 15頁 オピニオン「インタビュー」
『弱者が使える司法 日弁連会長・宇都宮健児さん』

 「裁判官増やし、「ゼロ地域」解消 法的扶助も充実を
  生活保護申請など、行政手続きにも弁護士使って」

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宇都宮健児(うつのみや・けんじ)1946年生まれ。71年弁護士登録
日弁連で消費者問題対策委員長、多重債務者対策本部長代行などを歴任。
今月から現職。

日本弁護士連合会(日弁連)会長選で、主流派閥が推す相手候補を破る「番狂わせ」で当選した宇都宮健児さん。多重債務者問題に取り組み、2008年末の「年越し派遣村」名誉村長を務めた活動は、弁護士の枠に収まらない。日本の司法にどんな風を起こすのか。(聞き手・山口栄二)

 ――会長選は1回の投票で決まらず、再投票となりました。

 「東京や大阪の弁護士会は派閥に属している弁護士が多いので、無派閥の私が1回の投票で当選できるとは思っていなかった。しかし、1回目の投票で、全国52の弁護士会のうち42の会で私が1位となるなど、いい戦いができた。派閥のしがらみがなく、執行部への不満が強い地方や若い弁護士たちなら私の主張を聞いてくれると思い、直接電話をかけて支持を訴えた」

 ――日弁連会長というと、東京と大阪の弁護士会の会長経験者が順番に就くポストという印象が強いのですが、選挙に出ようと考えたのは?

 「ある弁護士グループが昨年、全国各地でシンポジウムを開いた際、『次期日弁連会長にふさわしいのは誰か』という声を集約して、その中から候補を擁立しようという動きがあった。そこで私の名前が挙がった。最初、出馬の考えは全くなく、今回の選挙の投票日(2月5日)に、地方での講演会の予定を入れていたほどだった」

 「ところが、米国では黒人が大統領になり、日本でも政権交代が起きた。一方、日弁連は旧態依然のままだ。東京、大阪の弁護士会長経験者で会長ポストをたらい回しにしていていいのだろうか、と考えるようになった。司法制度改革も、経済的な弱者に光の当たるような形に見直すべき時期が来ており、私のような人間が会長になることも意味があると考えた」

     ■     ■

 ――会長選では「司法試験合格者数を1500人に減らす」と主張しました。現状は、合格者を3千人に増やす政府の計画に従って、約2千人にまで増えています。なぜ減らすのですか。

 「弁護士の就職難だ。かつては司法研修所を出た弁護士は、イソ弁(居候弁護士)として先輩の弁護士事務所で働かせてもらいながら、仕事のやり方を教わった。しかし、弁護士が増えすぎて、イソ弁をさせてくれる事務所が見つからず、固定給もなく机と電話だけを借りて仕事をするノキ弁(軒を借りる弁護士)や、自宅で仕事をするタク弁、携帯電話一つで仕事をするケータイ弁まで出てきている」

 ――仕事にあぶれるほどの弁護士がいれば、国民の権利救済に役立つはずです。就職難だから司法試験合格者を減らせ、というのはあまりにも供給者中心の論理ではないですか。都会で仕事がなければ、弁護士の少ない地方に行けばいいのでは? そうすれば地方の人たちの権利が守られます。

 「地裁支部があるのに弁護士がいない『弁護士ゼロ地域』は、93年には50カ所あった。だが、日弁連が地方での開業資金を援助するなどの対策をとり、今は解消できた。今回の選挙で全国を回ったら、地方にもノキ弁がたくさんいた。それ以上に深刻なのは、法的需要自体が減っていることだ」

 ――法律サービスへの需要が減っているのですか。

 「一連の司法制度改革の目的として、官僚主導の事前規制から、司法中心の事後救済への転換が叫ばれた。だが実際は、日本全体で新たに裁判所に持ち込まれる事件はここ数年減少の一途で、04年の574万件から08年には443万件まで減った。特に民事事件で目立ち、04年の317万件から08年の225万件へと4年で100万件近くも減っている。紛争解決手段として裁判が利用されなくなっているのだ」

 ――なぜですか。

 「弁護士ゼロ地域が解消される一方で、地裁支部があるのに裁判官が常駐していない『裁判官ゼロ地域』が全国に48カ所もある。つまり、司法は地方の市民から遠い存在になっている。身近で利用しやすい司法にするという改革の理念に逆行する事態が進んでいる。弁護士の仕事が減るのも当然だ」

 ――どうすればいいですか。

 「まず、裁判官の数を増やす。そして法律扶助制度を充実する」

 ――法律扶助?

 「経済的に弁護費用を負担する余裕のない人に、国が補助する制度だ。日本は国際的に見るとかなりひどい。国民1人当たりの民事法律扶助支出額で比べると、日本は37円に過ぎず、英国の2690円、ドイツの616円、フランスの426円、米国の309円など他の先進国に比べ、極端に少ない。これを充実することで、司法がもっと国民に利用しやすい存在になる」

 ――どう充実しますか。

 「30年前、サラ金問題が起き始めた当時、そんな面倒な仕事を引き受ける弁護士はあまりいなかったので、仕事がなくてひまそうにしていた私のところに、相談がたくさん集まってきた。私が多重債務問題にかかわるきっかけだ。今ではどの弁護士会も多重債務問題の相談の窓口をつくるようになった。しかし、貧困やワーキングプアの問題がこれだけ社会的な関心事となっているのに、相談窓口を設けている弁護士会はほとんどない」


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 ――そのあたりから手をつける?

 「日本の法律扶助制度の対象は、裁判実務に限られている。例えば、貧しい人が生活保護の申請に行く際、役所の窓口の担当者があれこれケチをつけて申請させないようにする『水際作戦』に対しては、弁護士が同行することが有効だ。現に一昨年末の『年越し派遣村』では、弁護士の同行が大きな効果を発揮した。しかし、現在の扶助制度では、こうした行政手続きは対象となっていない。行政手続きなどに法律扶助の対象を広げれば、貧しい人でも権利行使がしやすくなるし、弁護士にとっても新たな仕事の分野が増える。日弁連に貧困問題対策本部をつくりたい。先ほど司法試験合格者数の話が出たが、そうして法的需要が増えてから、合格者を増やせばいいと思う」

     ■     ■

 ――司法試験合格者数の増加による「法曹の質の低下」も一部で指摘されています。

 「質の低下があったとしても、それは必ずしも合格者数の増加によるものではなく、司法修習に問題があると考えている。以前は、司法修習は2年間だったが、現在は1年になってしまった。しかも、修習の間も土日は就職活動をしなければならない。これではじっくりと勉強できるわけがない」

 ――法曹養成制度のどこに問題がありますか。

 「司法修習生へのアンケートでは、回答者の半数以上が法科大学院などの学費のため400万円以上の借金を抱えている。中には1千万円という人もいるらしい。それに加え、現在は司法修習生は公務員の初任給程度の給与をもらっているが、これを今年11月から、貸与制にするという話が進められている。300万円の借金が新たに加わるのだ。修習が終わる段階で700万円以上の借金を抱えて、社会に出ることになる。これでは、経済的に裕福な人しか法曹になれない社会になってしまう」

 「そもそも法科大学院制度は、社会の多様な人材を法曹界に受け入れることが目的だったはずだ。社会の重要なインフラである法曹を安上がりに養成しようという発想は疑問だ。司法修習生への貸与制の問題は、近く日弁連に給費制維持緊急対策本部を立ち上げて、運動していきたい」

 ――弁護士報酬の基準を再び設けることや、解禁された弁護士広告の再規制も主張されています。でも、規制がないほうが競争が起きて、サービスは向上し、価格も下がるのでは。

 「以前は弁護士報酬に関して、弁護士会が基準を設定して、それを超える報酬を取ると懲戒の対象になった。ところが、政府の規制改革会議や公正取引委員会からの圧力で、基準が撤廃された。このため、弁護士報酬は当事者間で自由に決められるので青天井となった。その結果、多重債務者を食い物にする整理屋と結託した悪徳弁護士が高額の報酬を取ってトラブルを起こしても、なかなか処分ができなくなった。広告解禁も、様々な専門の弁護士がいるのに、多重債務者を対象とした借金整理の広告ばかりとなって、整理屋の宣伝手段になってしまった」

 「規制緩和で自由競争が起きてサービスの質が向上するのは、対等な当事者間だけだ。弁護士と依頼人は、知識や力関係の点で、対等ではまったくない。報酬基準も広告も、対等でない当事者間で安易に規制をなくすと、弱者が食い物にされてしまう。規制緩和で喜んだのは整理屋と悪徳弁護士だった、という事実を知ってほしい」


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【写真説明】

 代表を務める「反貧困ネットワーク」のバッジが光る
「若い弁護士が希望を持てない」
東京都中央区、鈴木好之撮影


     ■     ■

 ――司法制度改革の柱の一つ、裁判員制度についてはどう評価しますか。

 「市民が参加することで、これまでの調書中心の刑事裁判がよくなるきっかけになると期待している。しかし、現在は殺人など一定の罪名の裁判を一律に裁判員裁判にかけることになっているため、事件の滞留が起き始めている。裁判が始まるまで被告がかなり長期間勾留(こうりゅう)される事態が生じており、何らかの対策が必要ではないかと考えている」

 ――主流派閥が多数を占める日弁連の中で、無派閥の会長として政策をどう実現しますか。

 「選挙で、過半数が私の政策を支持したという事実は重いと思う。反対論があっても、同じ弁護士同士として議論すれば一致できる点はある」

 ――裁判官の増員にしても、法律扶助にしても、国の予算が関係します。どうやって政府を説得しますか。

 「これまでのように法曹界だけに閉じこもっているのではなく、国民・市民による運動をどう組織していくかが決め手だと思う。年越し派遣村の時も、あのような大きな運動を展開することで、厚生労働省を動かすことができた。消費者運動、労働運動、市民運動など様々な運動の皆さんと連携することによって、国を動かせると信じている。そのために、私の経験が生かせるのではないかと自負している」





 
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