なぜ、日本は大人も子どもにも『えん罪』が多いのか?「少年えん罪事件について」を読もう!!

なぜ、日本は大人も子どもにも『えん罪』が多いのか?
「少年えん罪事件について」を読もう!!



 大人の事件では、菅家利和さん(足利事件)がえん罪で17年半ぶりに釈放されました。大人のえん罪事件は、富山氷見市の柳原浩さんのえん罪事件(強姦罪などで服役後、真犯人が見つかり無罪と判明)も極めて有名です。柳原さんは、国と県などを相手に国家賠償請求をしています。違法な捜査をした警察官や検察官に合計1億400万円の請求をされています。弁護団は約160人だそうです。
 その他に、『布川事件』『狭山事件』『名張事件』『日野町事件』『福井事件』『袴田事件』『東電OL事件』『マルヨ無線事件』などの大人のえん罪事件は有名です。

 さて、子どもも大人と同じように、日本ではえん罪がとても多いのです。なぜでしょうか?

 2010年5月〜6月に、国連子どもの権利委員会(CRC)において、第3回日本政府報告書の審査が行われます。日弁連は、2008年4月に提出された日本政府報告書に対し、カウンターレポート(オルタナティブレポート)を作成致しました。
 先般、7月17日の日弁連理事会で承認された上記日弁連のカウンターレポート(本文は139頁、資料は30頁)は、程なく日弁連HPにて公表されると思いますが、とりあえず、「少年えん罪について」(本文121〜126頁)の部分について、このブログに掲載致します。



少年えん罪事件について

(1)日本政府は、少年えん罪事件の存在を認めないためか、第1回から第3回の政府報告書で、少年えん罪事件に全く触れていないし、違法な捜査の存在する実態目をつぶり、何の報告もなさず、その改善策にも言及していない(日弁連1回目レポート[596])。
  しかし、日本政府の統計 によっても、数十年間にわたって毎年、交通事件等を除く一般保護事件で、捜査はされたが非行事実無しとして審判が開始されなかったり、審判が開かれたが非行事実なしとして不処分となった事件が百件以上あり、数百件あった年もある。
 以下、いくつか著名な例(ケース)を挙げる。

[1]東調布署怪盗団えん罪事件(1976年)
1976年、共犯とされた4人のうち2人(当時16歳)は、3回の逮捕と2回の勾留観護措置で、96日間身体拘束された。「自白」した窃盗事件は200件以上であるが、捜査報告書によると被害金品は、現金2000万円、指輪2000個、時計500個、ネックレス100本などである。警察は、その所轄署内にたまっている未解決の、迷宮入りしかかっていた事件の大半をその少年たちに押しつけたのである。家庭裁判所は送致された窃盗事件全件について非行事実なしとした。※注1

[2]大阪老女殺人えん罪事件(1979年)
1979年、駄菓子屋を営む老女がやく殺され、現金十数万円等が奪われ、約9ヶ月後、小学6年生の少年(男性、11歳)が「自白」したが、付添人活動により「非行事実なし」を獲得した。触法少年のケースである。※注2

[3]柏少女殺人えん罪事件(1981年〜1987年)
小学6年生の少女(11才)が、小学校校庭で右胸と右手首を果物ナイフで刺殺された事件で、少年(男性、14才)は警察に取調を受け、約3時間で虚偽の「自白」をし、少年院に送致された。付添人弁護士の活動により、少年院で無実を訴えた少年に対し、最高裁は、『再審』の道を初めて認めた(1983年)。※注3

[4]綾瀬母子殺人えん罪事件(1988年〜1989年)
1988年11月白昼マンションで主婦と長男7才が惨殺された。約5カ月後、3人の少年(男性、15才)が襟をつかんで押したり、平手で顔をなぐったり、髪をつかんで壁にぶつけるなどされて虚偽の自白をし逮捕された。1989年9月、付添人弁護士(9人)の活動により「無罪」(非行事実なし)が確定した。うち1人の少年は、検察官、裁判官に身に覚えがないと訴えたが、聞いてもらえず、逆に警察にもどったときに怒鳴られ殴られて、恐怖から自殺を図った(未遂) 。※注4
警察のアリバイ証人に対する違法な補充捜査、3人の少年の最初の弁護人(1人)の少年の無実の話を聴く姿勢がなく、警察の立てた筋書を疑わなかった等の問題があった。※注5

[5]草加事件(1985年〜2003年)
1985年に発生した女子中学生殺害事件(いわゆる「草加事件」)では、少年らは「無罪」(非行事実なし)を主張し最高裁まで争ったが、「有罪」となった。その後死亡した被害者の遺族が提起した民事訴訟が、元少年らがえん罪を晴らすための場として機能した。2003年3月に民事裁判で少年側が勝訴し、「無罪」が確定した。えん罪を晴らすのに約18年もかかった(日弁連2回目報告書パラ412、413)。 ※注6

[6]山形明倫中マット死事件(1993年〜現在)
少年審判、民事訴訟で7人の元生徒・弁護団等はえん罪を晴らす活動を現在も続けている(日弁連2回目報告書パラ414〜417)。 ※注7

[7]調布駅南口集団暴行事件(1993〜2001)
1993年に調布駅南口駅前路上で発生した暴力行為等処罰に関する法律違反・傷害事件、家庭裁判所に送致され冤罪を訴えた少年6人のうち5人に少年院送致の決定があり抗告し5人全員が差し戻され、うち1人に非行なし(無罪)が言い渡されたが、残り4人が刑事裁判が相当ということで検察官に送致され、補充捜査の上非行なしの1人を含む5人が刑事裁判に起訴された。地方裁判所は裁判時未成年の1人につき不利益変更禁止を理由に公訴棄却。残り4人について裁判が継続したが、公訴が棄却された1名について、高等裁判所は中間処分で不利益変更にならないとしたが、上告した結果最高裁は保護処分に比し刑事処分は一般的類型的に不利益であるとして、1審の結論を支持して公訴棄却が確定した。地裁に残された4名については、公訴を維持する見通しがたたなくなり、検察官が公訴を取消し刑事裁判は終わった。非行なし不処分が確定した1名をのぞく4名は、実質無罪を確定させるため刑事補償請求を行い、紆余曲折を経たが、4名全員に刑事補償が満額認められ、事件は7年かかってようやく実質無実であることを認めさせることができ、終結した。 ※注8

[8]大阪地裁所長襲撃事件(2004年〜2008年)
2004年2月夜、徒歩で帰宅中の大阪地方裁判所の所長(当時)が、若者の集団に襲撃されて、現金63,000円を強奪された上、骨盤骨折などで全治2ヶ月の重傷を負った。強盗致傷容疑で少年2人(14歳、16歳)が逮捕され、事件当時13歳だった少年1人は補導されて、事情聴取を始めたその日のうちに「自白」した。また、顔見知りの2人の成人男性の名前を言って、自分たちの犯行だと「自白」した。警察は少年らの供述から2人の成人男性を逮捕し、検察官は大阪地方裁判所に起訴した。事件当時14歳と16歳の2人の少年については大阪家庭裁判所へ送致した。だが成人男性2人は警察署でも拘置所でも一貫して無罪を主張した。2人の成人男性は8年の懲役を求刑されたが、2006年3月、1審で無罪判決、2008年4月、2審も無罪判決が出て、無罪判決が確定した。 当時13歳の少年は、大阪府警が児童相談所に通告して児童自立支援施設に入所した。現在、施設から出所して、警察に自白を強要されたと訴え、民事訴訟にて係争中である。当時14歳の少年は、2006年3月に大阪家裁より中等少年院送致の保護処分が決定したが、その後、少年側の抗告により、2007年5月、大阪高裁で第1回抗告審が行われ、差し戻し決定、同年12月、大阪家裁は不処分と決定した。しかし検察側の抗告により、大阪高裁で第2回抗告審が行われ、2008年3月、差し戻し決定が出され、少年側の再抗告により、7月、最高裁で大阪高裁の差し戻し決定が取消され、少年の不処分が確定した。 当時16歳の少年は、2004年7月に大阪家裁より中等少年院送致と決定、2005年11月、少年院送致処分の取り消しの申し立てを行った。2006年2月、少年院を退院し、同月、大阪家裁より処分取り消しが決定した。検察側がこの決定を不服として大阪高裁に抗告受理申立てを行ったが、2008年9月、大阪高裁は抗告を棄却する決定を行った(成人の再審無罪判決に相当する家裁の保護処分取消・不処分決定が確定)。これにより、少年審判・刑事手続に付されていた4人については全員無罪判決・非行事実なし不処分決定が確定した。 ※注9

[9]御殿場事件(2001年〜現在)
静岡県御殿場市の公園で、2001年9月16日夜、少女(当時15才)を集団でレイプしようとしたとして被害者の証言のみで犯罪とされ、10人の少年(当時16〜17才)が強姦未遂で逮捕された事件である。捜査段階で少年10人は「自白」し、当時の天気の状況やアリバイ等も無視され、訴因のうち、犯行日が途中で1週間も変更されたにもかかわらず、「有罪」となった。
 5人の少年は、「自白」を維持し少年院送致などの処分を受けているが、元少年の1人は無実を訴え、2008年2月やり直し審判を申し立てたが同年12月結審している。
 5人の少年は少年審判で、無実を訴えた。1人の少年は、1審の家裁で「無罪」(非行事実なし)となった(2004年、改正前ならこれで確定)が、検察官が抗告受理の申立てをした。抗告が受理されて抗告審で「逆送」され、刑事裁判所で懲役2年6月執行猶予4年の判決を受けた(2007年)。無実を訴え、最高裁に上告したが、2009年4月棄却された。4人の元少年は「逆送」され刑事裁判となり、無罪を訴え続けたが懲役1年6月の実刑とした2審判決は上告審で棄却された(2009年4月)。『再審』の可能性があるが、無実を晴らすために子どもたちが長期間の刑事裁判をかかえることも大問題である。
最近大人では、真犯人が発見されたことにより服役後えん罪が晴れた富山強姦えん罪事件(2007年)などが有名であるが、少年の場合も古くから(1950年)真犯人の発見・服役により、少年院出所後、無実が判明したケースも知られている。一体どれだけ多くの少年が無実に泣いてきたのだろうか。無実を晴らすのに、長い年月がかかるのは、少年にとってあまりにも酷である。 ※注10

(2) 少年えん罪の原因
  前記のケースやその他の多数の少年えん罪事件を分析すると、
[1]警察が依然として自白偏重の姿勢を崩さないこと
[2]子どもたちを代用監獄(留置場)に安易に収容し、暴行・脅迫・誘導などを用いた違法な取調べを行っている実態があること
[3]警察が物証や現代的科学的な証拠を軽視し、見込み捜査をする傾向があるとともに、少年の話を聞き出す能力が不十分であること
[4]日本では警察官の匿名性が極めて強く、警察官の個人責任が制度として 確立していない。警察官が職務の遂行にあたり少年に損害を与えた場合、国家賠償法の判例や運用では警察官個人の民事責任を追及することは原則としてできないため、警察官の違法行為を防止できないこと
などに、少年えん罪の原因がある。

(3)少年えん罪事件の発生を防止し、違法な捜査を根絶するには、次のことが必要不可欠である。
[1]政府は、警察などの捜査機関が取調べの全過程をビデオ録画などによって記録される(捜査の可視化)規定を直ちに設けるべきである。この点について、国際人権(自由権)規約委員会の総括所見(2008年10月)19項は、「締約国は、虚偽自白を防止し、・・・・取調べの全過程に録画機器の組織的な利用を確保し」と述べている。
[2]犯罪少年・触法少年に対して、警察・検察・裁判所が、少年の黙秘権、証人尋問権、反対尋問権、全面的に国費による弁護士の援助を受ける権利(国費による弁護人・付添人選任制度)を実質的にかつ早急に保障し、それらの権利について明文の規定を設けるべきである。
[3]少年事件の捜査段階に関し、その特性に配慮し、国際準則に合致した特別の法律が制定されるべきである。
[4]少年の防御権を保障し、弁護人の取調べ立会権を認めるべきである。捜査機関が弁護人立会の申し出があるにもかかわらず、これを認めずに取調べを行った場合には、その取調べで得られた証拠には証拠能力がないとして証拠排除する原則を確立すべきである。弁護人の取調べ立会権について、国際人権(自由権)規約委員会の総括所見(2008年10月)19項は、「取調べ中に弁護人が立会う権利を全被疑者に保障しなければならない。」と述べている。
[5]日本政府は、国際人権(自由権)規約委員会の総括所見(2008年10月)18項も述べているように、代用監獄(留置場、警察の管理する拘禁施設)を廃止すべきであり、また少年を代用監獄に収容してはならないことを明文化すべきである。
[6]警察官、検察官、裁判官、弁護士に対して人権教育を徹底的に実施すべきである。国際人権(自由権)規約委員会は、2008年10月の総括所見で、「締約国は、規約の適用と解釈が、裁判官、検察官及び弁護士のための専門的教育の一部に組み込まれること及び規約に関する情報が下級審も含め全てのレベルの司法機関に普及されることを確保すべきである」と述べている(7項)が、参考とすべきである。

※注1 朝日新聞社『未成年』123〜182頁参照
※注2 高野嘉雄『大阪老女殺し事件』(法学セミナー増刊「少年非行」232頁〜235頁)参照
※注3 若穂井 透 著『子どもたちの人権』(朝日新聞社 167〜268頁)参照
※注4 日弁連子どもの権利委員会編『少年警察活動と子どもの人権』(61〜62頁)参照
※注5 横川和夫・保坂渉著『ぼくたちやってない』(共同通信 2009年2月3版)、塀内夏子作画、木下淳博、須納瀬 学、吉峯康博監修『勝利の朝』(小学館)、『綾瀬母子殺し冤罪事件が提起した問題点』(「東京弁護士会法律実務研究5号」)参照
※注6 清水洋・上田信太郎・山口直也『草加事件/少年事件研究会レポート11』(「法律時報63巻3号」1993年)参照
※注7 
北澤毅(立教大学文学部教授)・片桐隆嗣(東北芸術工科大学教養部助教授)共著『少年犯罪の社会的構築−「山形マット死事件」迷宮の構図』(東洋館出版社 2002年)、高嶋昭『山形明倫中事件を問いなおす』(北の風出版 2003年1月 100頁 1143円)参照
こちらもご参照下さい→ 『山形明倫中事件(山形マット死事件)』を問う!!−元少年たちは無実です!!元少年に『再審』(裁判のやり直し)を!!
※注8 村山裕・伊藤俊克・山下幸夫他編著『少年事件の法律相談』(学陽書房2003年)182頁〜189頁参照
※注9 一ノ瀬美成著『自白調書の闇−大阪地裁所長襲撃事件「冤罪」の全記録』(宝島社2009年7月1300円)参照
※注10 鈴木勝利「御殿場事件の問題点」週刊法律新聞「論壇」2009年6月12日付など参照
こちらもご参照下さい→ 御殿場少年事件『それでも僕らはやってない〜親と子の闘い3000日』冤罪は菅家利和さんのように大人にも子どもにも多発している!!
 
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