コミック『勝利の朝』等の感想文

文献の感想を述べさせていただきます。

(1)コミック『勝利の朝』(塀内夏子作画『勝利の朝』小学館)を読んで

私にとって、少年事件というものは、少年事件を扱った漫画「家栽の人」で触れた程度でした。
そこでは、少年のえん罪事件は取り上げてはおらず、
報道で大きく取り上げられた山形明倫中マット死えん罪事件など
数件のえん罪事件を知るのみで少年えん罪事件が多数あることがまず最初の驚きでした。
近時の少年による重大犯罪が増え、少年への重罰化が叫ばれている中で
しらずしらずに自分も、その流れに乗ってしまった様な気がします。
少年事件と残酷な手口が結びついてしまい、
少年事件のえん罪というものを考えたことが余りなかったことに反省の気持ち一杯です。

考えてみれば、精神的にも未熟な少年が、訳も分からないまま不安の中で拘束されて、
執拗な取り調べを受ければ、大人以上に虚偽の自白の危険性が高いことは明らかですのに、
今まで成年の刑事事件のえん罪しか念頭において考えてこなかったことに恥ずかしさを感じております。
親、学校、地域に見捨てられた少年が、自己を確立していく思春期にえん罪事件に巻き込まれ、
えん罪を晴らせないまま成長していくことは少年の以後の人生にとってどれほどの絶望感を与え、
社会に対する信頼を失い、人格を破壊させてしまうものであるかを改めて考えました。

そして、そのように見捨てられた少年の無実を信じ、
身を粉にして活動なさってきた弁護士、弁護団の活動に非常に感銘を受けました。
信頼するものを失い何を信じたらよいのか分からないであろう少年たちにとって、
先生を初めとする弁護士の存在は、自分を信じてくれる唯一の存在であり、
どれほど心強かったことかと思います。
そして、先生に信じてもらえたという事実が少年の人生できっと大きな支えとなって、
生きる糧となっていることと思います。

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私は、親の愛情に恵まれて、友人にも恵まれ、多くの人に支えられながら
警察のお世話になることもなくここまで過ごして参りました。
それをこの上なく幸せなことだと思っています。
そして、弁護士となったら親の愛情に恵まれず、
また誰も信じられずどこかで人生の歯車を掛け違えてしまった
少年の手助けをしたいと思っておりました。
しかし、そこでは自分の中で、罪を犯してしまった少年の更生が念頭にあり、
少年事件のえん罪というものを念頭においていませんでした。

先生の「少年えん罪事件を若き弁護士、修習生、法科大学院生などによりよく知ってもらい、
ひいては少年えん罪事件に対する、より深い問題意識を持って下さることを願っております」
という言葉が心に残りました。
比較的時間のあるこの時期に、このような問題意識を持てましたことを深く感謝いたします。


(2)一方、『「騙された」付添人!』(少年問題ネットワークメールマガジン
月刊「少年問題」通巻54号(2006年9月)所収)を拝読して、
少年事件のもう一つの難しさを感じました。
少なからずショックを受けましたが、先生に与えた衝撃はいかほどであっただろうかと察するに余りあります。
それでも、付添人として少年のため全力を尽くされた先生の活動、思いが
現在立派な市民として社会で生きているA君の心の支えになっていることと思います。

先生の意見書の中での、「少年は失敗を繰り返しながら、だんだん成長していくものであり、
少年を聖人君子のようにしようなどとは考えてならないのではないでしょうか。
感染的非行に走ってはやめ、走ってはやめた少年の自立と自我の形成は、
少年院ではなくこの社会でこそなされるべきだと付添人は確信しております」との文章が心に残りました。
かつて、「家栽の人」のなかで、主人公の裁判官が「罪を犯した少年も社会にもどってくるんです。そのとき、誰もが笑ってくらせる社会を考えていかなければなりません」と述べるシーンがありました。ふと思いだしました。
法曹になり、積極的に少年事件にも関わっていきたいと思っております。

(3)「夢に可能性を!」(『自由と正義』2006年9月号5〜8頁)をよませていただきました感想
友人が、東京女子医大病院の神経内科の医師をしていることもあり、
また以前から医療訴訟に関心もあったことから、明香ちゃんの事件は関心をもっておりました。
先生が証拠隠滅罪に問われたS講師の主任弁護人であったことに驚いております。

大学院の時に、将来医療訴訟に関わりたくて、医療の知識を身につけて弁護士になりたいと思って、
当時日本の国立大学で初めての試みであった文系にも医師への門戸を開く群馬大学医学部の学士編入学試験を受験したことがあります。合格できませんでしたが、現在も医療訴訟に関心がありロースクールの授業で今年「医療訴訟」を履修したいと思っております。
村松法律事務所でのエクスターンシップ中も医療と法律の交錯する事件に関わらせていただき、
医療と法律についてより関心が高まっております。

実家に帰った時の地元の新聞記事に、産婦人科の病院で、
産婦人科医が医療訴訟の追及のリスクと、
いつ追及されるかわからないとの精神的負担に耐えきれず
産科の取扱いを止めるとの記事が特集されておりました。
友人の父親が院長を務める比較的大きな産婦人科病院で
友人も産婦人科医としてそこで活躍していたことから、
またいとこの子供がその病院でお産をしていたことから非常に驚きをもって記事を読みました。
産科は、お産の時に不意の事故が起こる率が高く、
産科を巡るトラブルも多く、医師の医療訴訟保険で払われる額も産科は多いとのことです。
産科の廃止の動きはひろまりつつあるそうです。
医療訴訟というと被害者に目が向きがちだったのですが、
医師の苦しみ、精神的な負担、命の重みを考えさせられました。

先生の文章を読んでおりまして、医療過誤を起こしてしまった医師の苦しみと、
被害者の苦しみ及び愛する家族を失ってしまった家族の苦しみ、
両者の苦しみを背負って弁護をなさった先生の苦しみを考えました。
先生と明香さんのご両親との間で、あのようなお約束があったこと、初めて知りました。
『約束の重み』の章を読んでおりまして、胸が痛くなりました。
ご両親が先生との約束を果たされたのは、ご両親とともに、先生自身も苦しまれ、
明香ちゃんの死を無駄にしないための闘いをしてこられたことが、
ご両親を約束へと動かしたのではないかと考えました。
S医師の苦しみも、ご両親と先生との約束で救われたことと思います。

先生は、この事件の裁判が始まった直後に倒れられたのですね。
一時期は夢を失われた先生が、毎日が実に楽しい、夢が一歩一歩実現していると書かれておられることに、
非常に勇気づけられました。
札幌で、本当に生き生きとした先生のお姿に接してその訳が分かりました。

私はなかなか司法試験に合格できず、両親にも本当に辛い思いをさせています。
弁護士となりやりたいことが一杯あり、実現したい夢がいっぱいあるのに、
夢と現実のギャップに苦しんでいました。
しかし夢への努力が欠けていたように思います。
そして、夢とは楽しいものであるはずなのに、
夢がなかなか合格できないことで苦しくなってしまったように思います。
両親を始め多くの人の支えでこの年まで勉強をさせてもらい
法曹への夢を捨てずにいられることを幸せに感じつつも、毎日楽しんで生きていないように思います。
先生の文章を読ませていただきまして、夢の可能性、楽しく生きることの大切さを感じました。
ありがとうございました。

(4)「刑事司法分野における国連ウィーン本部の活動と日弁連」
(日弁連の国際的な活動)(『自由と正義』2006年7月号53〜67頁)
について興味深く読ませていただきました。
エクスターンシップ中に、村松法律事務所で「犯罪による収益の移転防止に関する法律」に
目を通させていただき、簡単な解説をしていただきました。
この法律がコングレスコミッションの議論からでて、
日弁連が素早い対応ができたことが特集を読みまして繋がり、非常にためになりました。

そしてコングレスコミッションとは何か、参加の経緯から、
専門的法律家集団としての日弁連の役割、国内刑事法制に与える影響等の問題意識が
非常によく分かりました。
コングレスコミッションが、人権基準を生み出すフォーラムであり、
議論の動向が国内刑事法制に重大な影響を及ぼし、
その先進的な議論が国内の刑事司法において将来起こりうる問題意識の先取りである場合が多いので
問題意識を知り、国内での議論に活かすこと、
また、より人権保障を推進する方向での新しい議論や基準を国内に広く紹介し活用することは
極めて有益であるとの部分はなるほどと思いました。
このような問題意識を学者や弁護士が共有すれば、
国内で議論も少なく法律が制定されてしまう国会の現状において、
十分な議論ができ国民にも周知でき、より議論を深めた上で法律が制定されることと思います。

2007年3月12日

北海道大学法科大学院 青井芳夫


 
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