知的障害などのある被疑者・被告人の刑事事件の実務的レジュメ(池田直樹弁護士、辻川圭乃弁護士)を紹介します!

知的障害などのある被疑者・被告人の刑事事件の実務的レジュメ
(池田直樹弁護士、辻川圭乃弁護士)を紹介します!



 先般、『ケーススタディ 障がいと人権』の出版をご紹介しましたが(画期的な『ケーススタディ 障がいと人権−障がいのある仲間が法廷を熱くした』出版される!!、本日は、その本の出版の中心メンバーである、池田直樹弁護士(大阪アドボカシー法律事務所)、辻川圭乃弁護士(辻川法律事務所)の最新の講演(於大阪弁護士会 『知的障害などのある被疑者・被告人に対する弁護活動上の配慮について』)のレジュメを掲載しました。
 もちろん、ご両人からは掲載の許可をいただいています。
 実務的にも、極めて有益なレジュメですので、是非読んでいただき、有効に利用して欲しいと思います。

 先般ご紹介した『ケーススタディ 障がいと人権』は、日本で始めての障がいを巡る裁判例集です。この出版物は、
‐磴いを理由とする差別や障がいのある人に対する権利侵害が、今なお、止まない状況にあること
現行法では十分に救済しえないこと
裁判手続以外の簡易迅速な救済手続を設置する必要があること
 を訴えるのにも、最適な資料です。 

 障害者刑事事件の裁判ケースは、『ケーススタディ 障がいと人権』の299〜340頁とも合わせてお読み頂ければ、とても有益です。

 なお、大阪弁護士会(障がい者刑事弁護マニュアルプロジェクトチーム)では、心身に障がいのある人が被疑者・被告人になった場合の適正手続の保障と司法アクセス権の保障のために、以下のような試みを始めています。
(1)会員に対する連続研修講座
 平成21年度、5月中旬、6月上旬、6月下旬を目処に3回連続で、障がいのある人や被疑者・被告人になった場合の弁護活動に備えて、障がい特性や聞き取りのスキル、具体的な弁護方法、マスコミ対策、更生保護などに関しての連続講座を行う。
(2)報道などで被疑者に障がいのあることがわかった場合の当番弁護士としての派遣の仕組みの研究
(3)地域生活定着支援センター(仮称)との連携



『知的障害などのある被疑者・被告人に対する弁護活動上の配慮について』

弁護士 
辻川圭乃
弁護士 池田直樹


第1 
事例報告

〔事例1〕窃盗 Aさん

1        プロフィール

男性、療育手帳『B2』(軽度)、一般就労可能、家族支援なし。職場での人付き合いがうまくない。金銭管理ができない(手持ち金を無計画に使ってしまう)。

2        犯罪歴

        21歳、住居侵入、窃盗

         (懲役1年、執行猶予3年)

        24歳、窃盗未遂(駐車中の貨物自動車の鍵を開け物色中、現行犯逮捕)。事件前に大切なものを盗まれる被害に遭う。同僚からのいじめも重なった。

(懲役1年、執行猶予4年、保護観察付き、遵守事項「他人の物を盗まないこと」)

        27歳、建造物侵入、窃盗未遂(昼間、事務所の更衣室に入り、ロッカーを開けたところで、現行犯逮捕)。精神鑑定は採用しなかったが、情状証拠として精神科医師の意見書提出(検察官、同意)。事件前に、友人に頼まれ金を貸してしまう。同じ犯罪を繰り返すことで、本人も悩んでいる。

         (懲役12月の実刑、未決算入20日)

        29歳、建造物侵入昼間、事務所の更衣室に入り、ロッカーを開けたところで、現行犯逮捕。「立入禁止の場所にこっそり入るとドキドキする」)事件前に、失業。仕事を探したが見つからない。

      (懲役1年の実刑、未決算入60日)

出所後、前記事件中に支援してくれていた支援センター担当者と連絡を取って、地域生活を始めた。困ったことがあれば、上記担当者や当職のところに電話を架けてくる。

 
〔事例2〕無銭飲食 Bさん

1        プロフィール

男性、手帳なし(中度)。2桁の計算はできないが、自分の名前は書ける。小、中と普通学校を卒業後、家族と遠く離れ単身、工場を転々。

2        犯罪歴

        20歳から26歳にかけて、万引き(5回)、空き巣、自転車盗、無銭飲食(2回)を繰り返す。

        26歳、窃盗(スーパーで食品【1500円余】を窃取)で有罪判決。

        (懲役8月、執行猶予3年)

        27歳、(ファミレスで無銭飲食【3000円余】)現行犯逮捕。有罪判決。事件後支援団体が関与するようになったが、馴染めなかった。

        (懲役10月の実刑、未決算入50日)

        29歳、(ファミレスで無銭飲食【6000円余】)現行犯逮捕。有罪判決。支援団体が関与。精神鑑定は採用しなかったが、精神科医師の意見書提出〔前件と同様〕。

            (懲役1年の実刑、未決算入100日)

出所後、裁判中から傍聴するなど支援してくれた事業所が受け入れ、そこで寝泊りするようになり、そこの作業を手伝っている。


 
 〔事例検討3〕 未成年者誘拐、殺人未遂 Cさん
 
1        プロフィール 男、IQ60(精神年齢89ヶ月)、家族と同居(事件後施設入 所、その後グループホームから通所)
2        犯罪歴
    36歳、3歳の幼児を電車に乗せて、連れ廻り、終電車のあと、自ら警察に行き幼児を引き渡す。現行犯逮捕。精神鑑定では完全責任能力あり。
      (懲役16月、執行猶予4年)
    41歳、2歳の幼児を連れ去り、電車や船に乗せて、連れ廻り、深夜警察に行き幼児を引き渡す。現行犯逮捕。精神鑑定では完全責任能力あり。
      (懲役14月の実刑、未決300日算入)
    43歳、2歳の幼児を電車に乗せて、2時間連れ廻し、警察に自首。
      
(懲役110月の実刑、未決30日算入)
    50歳、3歳の幼児を陸橋から投げ落とす。新聞報道を契機に捜査段階で弁護団を構成、誤って殺意を固められないように、順次交代で、できるだけ途切れないように接見。接見内容はメールで共有化。精神科医師にも相談。殺人未遂で起訴。精神鑑定申請(知的障害者の鑑定経験豊富な医師を希望)。 
      (懲役5年6月の実刑、未決
450
日算入)
    
出所後の地域生活支援ネットワーク(精神科医師、弁護士、受け入れ施設、社会福祉士など)を作って、受け入れ準備を進めている。


 第2 捜査弁護における工夫と留意点 

1 予備知識
 

〔1〕    累犯の場合に、過去の犯罪類型(態様)から一定の傾向を見抜く

    家族からの孤立

    「窃盗(万引き、無銭飲食、事務所荒らし)」「放火(弱者の犯罪)」「幼児に対する強制わいせつ」など

 

〔2〕    身上経歴(学歴、職歴など)について、本人や家族、関係者から聞き取り

    「養護学校の卒業ですか?」

    「地域の学校で、障害児学級(なかよし学級など)に入っていましたか?」

    「療育手帳を持っていますか?」

    「障害年金をもらっていますか?」

 〔3〕    知的障害を含む「障害」の全体像を把握する。
 ・    知的障害を伴わない発達障害

    知的障害を伴う発達障害

 

    広汎性発達障害

    アスペルガー

    自閉症

    自閉的傾向

 

    てんかん

    ダウン症

 

〔4〕    被疑者が、どの類型の障害か、を予測する。

 

〔5〕    協力が得られる精神科医師に基礎データを送り、障害特性を見極めてもらう。

 

〔6〕    責任能力、訴訟能力について、一定の見通しを持つ。


 
2 被疑事実について、被疑者の障害特性に添った聞き取り方法を工夫する 

〔1〕
   
ゆっくり話す 

〔2〕    分かりやすい言葉に置き換える 

〔3〕    図を使う 

〔4〕    繰り返し説明する 

〔5〕    聞き取り内容をまとめた手紙(大きな活字で)を送る 

3 被疑者の「障害に関する証拠」の収集
 

〔1〕    「養護学校」「以前入所していた施設」の生活記録の取り寄せ(弁護士照会)⇒行動特性

 

〔2〕    家族、友人、雇い主(就労歴)からの聞き取り⇒同

 

〔3〕    「療育手帳」の判定書(知能テスト、心理判定書など)⇒能力、特性

 

〔4〕    障害年金手続の有無、通帳の保管者(被害弁償の可否)⇒生活力


 
4 取調べに対するアドバイス 

〔1〕    優しく話しかける警察官に対する黙秘権

 

〔2〕    警察官は、事件が起きると犯人を捜す役割がある。しかし、あなたは、それに協力する義務はない。

 

〔3〕    「被疑者ノート」の作成アドバイス


 
5 捜査官(取調べ検事)に対する申し入れ 

〔1〕    取調べの際に弁護人の同席を求める。

 

〔2〕    誘導しないように。

 

〔3〕    これらの申し入れを内容証明で出しておくことで、強引な取調べの牽制になり、公判での捜査記録の信用性を弾劾する際に役立てる。



 
第3 公判弁護における工夫と留意点 

1        冒頭で、被告人の障害特性を裁判官にアピール

(目的 被告人の事実認識能力の知ってもらう。調書の信用性への牽制)

 

〔1〕    被告人の人定質問の前に、以下の被告人質問をする。

    「被告人が今、置かれている状況を理解しているか、まず、質問させて下さい。」

    「ここは何というところですか?」

    「正面の壇上にいる人は何をする人ですか?」

    「左にいる人は?」

    「私は何をする人ですか?」

 

〔2〕    図を描かせることで、被告人の障害特性を裁判官にアピール

    「『実のなる木』を描いて下さい」

    「女の人を描いて下さい」

    「自分の家を書いて、その横にあなたが立っているところを描いて下さい」

 

2        責任能力を争うため、精神鑑定を申請する

 

〔1〕  軽微な罪名の場合は、鑑定申請が採用されない場合が多い

    その場合は、「情状証拠」として、協力してもらえる精神科医師(事件までの主治医がいればその医師)に「意見書」(障害特性、知的判断能力、制御能力、本件で障害が影響を与えた可能性など)を書いてもらう。

    情状証拠であれば、検察官も同意するケースが多いのではないか。

    検察官の同意が得られない場合は、弁護人の申請書のなかに引用する。

    医師には、基礎資料としての療育手帳判定の際の心理判定書などを取り寄せておく。

    また被告人の家族から生育歴、生活状況を、雇用主から就労状況を、被告人に係わってきた施設、作業所などから生活記録(パニック、トラブルの経験)をそれぞれ聞き取りし、資料を入手して情状証拠として提出。

〔2〕    重大な罪名の場合は、鑑定が認められやすく、申請書には上記意見書を添付する(前記内容の他に、精神鑑定の必要性などを追加してもらう)。

 

3        証人尋問

〔1〕    家族などの証人については、本人から詳細な証言、正確な証言が得にくい場合には、本人に情状事実を証言してもらうように打ち合わせしておく。

〔2〕    本人尋問については、本番で緊張しやすいことから、事前の接見で、事実の流れを何度か確認しておく。

                                            以上

 
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