「障害者雇用促進法」における企業のあり方について

「障害者雇用促進法」における企業のあり方について



 先般、「障害者雇用促進法」における企業のあり方について、相談を受けたA社に対してレクチャーを行いました。
 現在、障害者の権利に対する意識は世界的に高まってきています。このような状況の中で、私たち一人ひとりも、障害者を取り巻く様々な問題に対して目を向け、主体的に取り組んでいくことが求められているのではないでしょうか。このレジュメは、障害者を取り巻く問題のうち、特に雇用問題にスポットを当て、我が国の「障害者雇用促進法」のあり方について検討していくものです。障害者の雇用問題に対する意識を高める上で、このレジュメは大変参考になると思いますので、是非ご活用下さい。

                                    

                           吉峯総合法律事務所
                               弁護士 吉 峯 康 博
                               弁護士 中 村 栄 治

障害者雇用促進法の目的
 障害者雇用促進法第1条
 「この法律は、身体障害者又は知的障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等のための措置職業リハビリテーションの措置その他障害者がその能力に適合する職業に就くこと等を通じてその職業生活において自立することを促進するための措置を総合的に講じ、もって障害者の職業の安定を図ることを目的とする。」


障害者権利条約
 平成18(2006)年12月13日、国連総会で「障害者権利条約」が採択され、平成20(2008)年5月3日に同条約が発効した。なお、日本も平成19(2007)年9月28日に同条約に署名している。
 この障害者(注1)権利条約は全50条からなり(注2)、第2条には、これまでの人権条約にはみられなかった「合理的配慮」という考え方が示されている。合理的配慮 Reasonable Accommodation(注3)とは、障害に伴う様々な不平等や不利益について、これらを解消するための改善や変更を、社会の側から行わなければならないとの考え方をいい、同条には、合理的配慮を行わないという不作為も、障害者に対する差別に当たるとの考え方も明示されている。
 このような考え方に基づいて、同条約の第27条[労働及び雇用]では、他の者と平等に障害者の労働の権利を認めることとされ、また、この権利を保障・促進するため、あらゆる形態の雇用に係る全ての事項募集、採用及び雇用の条件、雇用継続、昇進ほか)に関し、障害に基づく差別を禁止することなど、11項目の措置を採ることを求めている。
 障害者人権条約の採択、発効は、障害者の権利に対する意識が世界的に高まっていることを示しており、我が国においてもこのような意識の浸透、定着が求められている


【Q1 障害者雇用促進法は、企業にどのようなステップを求めていますか?最近の動向について教えて下さい。】

1 障害者雇用促進法をめぐる最近の大きな動きとしては、平成17(2005)年の同法改正や、平成20(2008)年3月7日に同法の改正案が国会に提出されたことが挙げられる。
(1) 平成17(2005)年改正
   同改正では、\鎖西祿下圓紡个垢觚柩兮从の強化として、精神障害者を雇用率の算定対象とし、また、∈濛霆業障害者支援制度を創設し、自宅等で就業する障害者を支援するため、企業が在宅就業障害者に仕事を発注した場合(在宅就業支援団体を介する場合も含む)に、発注元企業に特例調整金等を支給するなどの措置が採られた。さらに、同改正では、障害者雇用促進施策と障害者福祉施策の有機的な連携や、そ成金制度の拡充などが行われている。
(2) 平成20(2008)年3月7日提出にかかる同法改正案
   そして、平成20(2008)年3月7日提出の同法の改正案の内容としては、障害者雇用納付金の徴収等の対象範囲につき、これまで常用労働者が301人以上の企業であったものを、101人以上の企業に拡大したことが注目に値する。障害者雇用納付金は、雇用率未達成の企業に課されるものであり、雇用率未達成に対する制裁的な意味合いもある。なお、納付金制度の内容については、Q4で詳しく述べる。
 同改正案からも分かるように、障害者雇用促進法は、特にこれまで雇用率未達の割合が大きかった中小企業に対し、障害者雇用への更なる協力、参加を求めているといえる。もっとも、このように数字の上での障害者の雇用量の確保を図ったとしても、必ずしも「採用や雇用の条件」といった雇用の質を確保することにはつながらず、障害者にとって働きやすい労働環境を整備し、質・量共に充実した障害者雇用を実現するために、同法の更なる見直しを求める動きもある。
 改正案のその他の内容については、|算間労働者(週所定労働時間20時間以上30時間未満)を雇用義務の対象に追加することや、∋業協同組合等を活用して中小企業が共同で障害者を雇用する場合に、当該中小企業が雇用した障害者を当該事業協同組合等が雇用した障害者とみなし一括して雇用障害者数を算定する特例、さらに、F知禹匆饉劼鮖たない企業グループについて、グループ内子会社が雇用した障害者を親会社が雇用した障害者とみなす特例などが盛り込まれている。
2 以上の通り、近年の障害者雇用促進法を巡る動きとしては、精神障害者を含めた障害者雇用支援のための諸制度の整備、充実とともに、納付金徴収対象企業の拡大による障害者雇用数の増加が図られており、また、障害者の労働環境の更なる整備、改善が求められていることが挙げられる。そして、今後も障害者雇用政策の強化が進められることが予測される
  このような政策の強化が図られる背景には、自立を求めて求職申込みをする障害者の数が増加していることや、世界的に障害者の権利に対する意識が高まっていること等の事情が存在しており、障害者雇用は、日本国内に止まらず、世界レベルでも社会福祉政策として重要な地位、意義を有しているといえる。
  かかる状況の中で、企業がその社会的責任を果たすためには、上記のような障害者雇用促進法の動きに遅れることなく、企業として積極的・主体的に障害者雇用に取り組むことが当然に要求される。企業も障害者雇用の一翼を担う者としての社会的責務を負っているのであり、実際に、東京の企業の障害者雇用率も増加傾向にあることからすれば、障害者雇用への対応は、その企業の社会的責務に対する姿勢、考え方を判断する上での試金石であるということもできる。


【Q2:労働組合の主張や理念(たとえば同一価値労働同一賃金など)と、障害者雇用の関係について、特に労働条件の面で問題となることや、考え方として整理しておくべきことは何ですか?】

1 基本的な考え方
  健常者と障害者との間においても、基本的には同一価値労働同一賃金が当てはまるであろう。障害者を健常者と比べて過度に優遇しすぎると、かえって健常者からの反発等によって障害者にとって働きやすい職場環境を整えることが困難になることも考えられるし、障害者と健常者を労働条件の面でも平等に取り扱うことが、障害者の自立・自信につながるという側面もある。反対に、同一労働当たりの賃金を障害があることを理由に引き下げることも当然許されるべきではない。
 したがって、原則的には障害者と健常者の労働条件は同一のものとすべきである。実際に、障害者雇用の好事例とされるケースには、障害者と健常者の労働条件を同一とするものが多く見られる(高齢・障害者雇用支援機構ホームページ「障害者雇用事例リファレンスサービス」参照)。
2 「合理的配慮」の必要性
  ただし、障害の種類や程度は一人ひとりによって千差万別であるから、場合によっては、勤務時間休憩時間、及び安全配慮等の労働条件や、障害者の労働をサポートする体制の整備等における「合理的配慮」が当然に必要となってくるため、ケースに応じた柔軟な考え方が要求される。
 このような配慮は、障害者人権条約における「合理的配慮」の考え方に基づくもので、障害者の労働の権利を他の労働者と平等に保障するために必要であり、むしろ労働者間の平等を徹底する上で、なくてはならないものである。障害者雇用の促進を図り、かつ障害者の職業の安定を実現するためには、使用者側だけでなく、労働者側においても、このような「合理的配慮」への理解や主体的・積極的な取組みが必要不可欠であり、労働組合としても以上の点を考え方として整理しておくべきである。


【Q3:障害者雇用を進める上で、受け入れ側が配慮すべきことは何ですか? 職場環境はどうあるべきでしょうか?】

1 企業側の障害者雇用への理解がなければ、障害者雇用は成り立たないことは言うまでもない。そこで、まずは、企業側の受入れ体制の整備の第1段階として、障害者雇用についての理解を深めることが先決である。
 そのためには、企業トップが障害者雇用という企業の社会的責務を自覚するだけでなく、人事担当者や現場の社員レベルでも、研修等により障害者雇用の意義、重要性について啓発を進めていく必要があろう。また、このような現場レベルでの理解、自覚が伴わない限り、障害者が働きやすい職場環境作りは不可能であり、障害者雇用に適した職場環境を整えるためには、共に働く社員の自覚・理解が最も重要であるともいえる。
2 第2段階としては、障害者受入れのための具体的な社内体制を整備する必要があり、経営計画への組み込みや、社内でのプロジェクトチーム等の設置、法78条が規定する『障害者雇用推進者』(法は「選任するように努めなければならない」としているにとどまる。)を選任する等の措置を講じるべきである。なお、障害者雇用推進者には、人事・労務を担当する部長クラスの者を選任するのが適当であろう。また、職場の入り口にスロープを設ける等、物理的な受入体制を整えることも重要である。
3 その上で、第3段階として、障害者雇用率達成に向けて企業としての具体的目標を設定し、雇用率達成、維持のために努力を続けていくことが必要である。
4 なお、雇用管理等に関する専門的な相談・助言等は、独立行政法人『高齢・障害者雇用支援機構』が行っており、また、障害者の求人、職場定着・継続雇用等の支援は、ハローワークが行っているので、各ホームページ等を参照してみるとよい。


【Q4:A社の雇用義務人数は3人です。現在2人分の雇用をしたとみなされています(採用は1人ですが、障害の程度が重度であることから2人分とみなされる)が、義務とされる人数に足りない1人分はどうなるのでしょうか? 罰金を払う必要がありますか? 何もしなくてよいのでしょうか? いつまで猶予がありますか?】

1 障害者雇用納付金制度
(1) 法53条以下により、雇用率未達成の事業主には、障害者雇用納付金が課される。この納付金の額は、雇用率相当数に不足する人数1人当たり5万円である(ただし、この金額を算定する基礎となる調整基礎額は政令で定めることとされており、将来諸事情を勘案して変更される可能性はある。)。
 なお、納付金の使途は、雇用率達成の事業主に対する調整金、障害者多数雇用中小企業事業主に対する報奨金、障害者を雇い入れる事業主に対する助成金等であり、障害者雇用に伴う事業主の経済的負担の調整を図る目的がある。
(2)この納付金を支払わない事業主に対しては、『高齢・障害者雇用支援機構』(以下、『機構』という。)が納入の告知をし、これを受けた事業主は納付金と、納付金の1割に相当する追徴金を支払わなければならない。
 さらに、納付金及び追徴金を支払わない事業主に対しては、機構による督促を受け、一定の期限までに支払わないと、国税滞納処分の例により、滞納処分を受ける可能性がある。
 なお、障害者雇用や納付金の負担が事業主に与える影響を考慮し、現在は暫定措置として納付金徴収対象となる企業は常用労働者301人以上の企業に限定されており、300人以下の中小企業からは徴収していない
(3)しかし、平成20(2008)年3月7日に閣議決定され、同日国会に提出された障害者雇用促進法改正案には、納付金徴収対象企業の拡大が盛り込まれており、具体的には、平成22(2010)年7月1日に常用労働者201人以上の企業に、さらに、平成27(2015)年4月1日には101人以上の企業に拡大される見込みである。
 したがって、現在では納付金の徴収を受けていなくとも、平成22年(2010年)7月1日以降にはA社に対しても納付金が課される公算が高く、以上のことを予め念頭に置いておく必要がある。
2 障害者雇入れ計画の作成
(1) 作成を命ずる対象
 次の全てに該当する事業主に対して行うこととされている。
ア 対象障害者の雇用割合が著しく低いこと
イ 障害者雇用率を達成するために、今後雇い入れなければならない対象障害者の数が著しく多いこと
ウ 今後、新規の労働者の雇入れが相当数見込まれること
(2) 計画の内容
 計画は、命令が発令された後、直近の1月1日から3年間の期間で、法定雇用障害者数に不足する障害者の数、雇入れを予定する労働者の数などを考慮しながら実行ある計画となるように定めるものとされている。
 なお、計画を作成したときは、その計画書を公共職業安定所長に提出しなければならないこととされている。
(3) 計画の変更・適正実施勧告・状況報告等
 提出した計画の内容が著しく不適当な場合、公共職業安定所長はその計画の変更を勧告することがあり、また、計画の実施を怠っている場合などには、公共職業安定所長は計画の適正な実施の勧告をすることがある。
 さらに、計画の実施状況についても、公共職業安定所長に報告しなければならない。
(4) 公表
 そして、上記の計画変更ないし適正実施の勧告に従わない事業主については、その旨を厚生労働大臣が公表することがある(法47条)。これによって当該企業は社会的責任を果たさないということが明らかにされると、当該企業に対する社会的信用は失墜し、企業のイメージにとっては大きな打撃となる。 
(5) 上記(1)で述べたように、かかる雇用計画の作成が命じられるのは、上記の通り雇用割合の未達成が著しい場合などであり、A社の現在の障害者雇用状況、A社の有する業界・社会における最高の信用度からすれば、計画作成を命じられることはないと思われるが、このような制度の存在についても予め十分知っておくべきである。

以上


※注1 「障害の医学モデル」と「障害の社会モデル」
※注2 選択議定書(18条からなる)もある。ただし、日弁連の総会決議では、選択議定書を入れるとハードルが高くなるという誤った見解に基づき、総会決議には入っていない。
※注3 「新しい概念」である。その他に『インクルージョン』or『インクルージング教育』(24条)など。


【必読文献】
1.東 俊裕 監修、DPI日本会議編『障害者の権利条約でこう変  わるQ&A』解放出版社(2007年12月150頁1400円+税)2006  年12月国連総会で条約の採択後、初めての条約の本。
2.日本障害フォーラム『みんなちがってみんな一緒!障害者権利条約』(2008年5月48頁500円)中学生や高校生にも読んでもらえるよう、平易でハンディな且つ高度な、最新の本。
3.『障害者権利条約で社会を変えたい Nothing about us, without us !』福祉新聞社(2008年9月80頁頒価500円)29人(専門家、弁護士、マスコミなど)の優れた連載等と条約の政府仮訳、川島・長瀬仮訳、日本障害フォーラムJDFコメントは極めて重要。
4.長瀬 修・東 俊裕・川島 聡編『障害者の権利条約と日本−概要と展望』生活書院(2008年7月309頁2800円+税)「合理的配慮」「インクルーシブ教育」等詳述し、条約と選択議定書(英文も)付き。すべての法律家にとって必須の本。


【参考】
1.日弁連・人権擁護委員会『差別禁止法の制定に向けて−障がいのある人に対する配慮は社会の義務です』2007年10月(再改訂版)34頁 コンパクトな優れたパンフレットである。
2.「バリアフリー対策ゼロの施設・ビルがあまりにも多すぎる!!箱根湯本温泉吉池旅館ケース顛末記(円満解決)」(http://yoshimine.dreama.jp/blog/182.html)ブログ「夢を追い続ける車椅子の弁護士吉峯康博」2008年7月1日付記事
3.『「子どもの権利」「子どもの人権」のための平易な「基本文献」ベスト100』
4.「合理的配慮」= Reasonable Acommodation 英和辞典「プログレッシブ」小学館より


 
CMSならドリーマASP