国連人権理事会の普遍的定期的審査(UPR)作業部会における初めての日本の人権状況についての審査はどうだったでしょう?

国連人権理事会の普遍的定期的審査(UPR)作業部会における
初めての日本の人権状況についての審査はどうだったでしょう?


 先日、ブログに掲載したとおり(「本日(2008年5月9日)夜(日本時間)、国連人権理事会の普遍的定期的審査作業部会における初めての日本の人権状況についての審査が、世界に同時生中継されますので、是非注目してください!)、5月9日(金)午後9時半から12時半(日本時間)に、国際人権理事会普遍的定期的審査(UPR)作業部会における日本の人権状況についての審査が行われました。

 日弁連代表団の一人としてジュネーブに出張された海渡雄一さん(弁護士)より、早速審査の報告がありましたので、以下、転載します。
 日本の人権状況が、国連の場でどのように評価されているのか、是非お読み下さい!!

 また、今回の審査について日本のマスコミの報道についても、海渡さんがまとめてくださったものがありますので、末尾に転載します。

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 ジュネーブで5月9日午後2時30分から5時30分まで、人権理事会の日本政府に対する審査を傍聴した海渡です。審査を見た上での続報です。

 まず、実況中継を見られなかった方も、次のウェブ上で内容を確認できます。

 
http://www.un.org/webcast/unhrc/archive.asp?go=080509#pm

 国別に発言が分割されていますので、参考までに課題ごとに、発言した順番に
それぞれの問題を取り上げた国名を挙げておきますので、時間のない方も興味の
ある課題別にみて頂ければ幸いです。

 
死刑ないし死刑確定者の処遇
 やはり、なんと言っても今回のハイライトは死刑の執行停止を求める声が圧倒
的に噴出したことです。日本国内で、死刑判決と死刑執行が増加していることに
多くの国々が強い懸念を表明し、執行停止を求めました。
 ベルギー、イギリス、ルクセンブルグ、ポルトガル、フランス、アルバニア、
メキシコ、オランダ、ブラジル、イラン(死刑確定者の処遇問題)、トルコ、ス
イス、イタリア(合計13カ国)
 特に見応えのあるのはイギリス、ルクセンブルグ、ポルトガル、フランスあた
りでしょうか。
 これに対する日本政府の答えですが、審査の最終コメントの部分で、法務省か
ら死刑の執行を停止することは、あとで再開したときに残虐であるから執行停止
をしないと答えました。死刑の執行をその日の朝まで教えないで、毎日を明日が
処刑の日かも知れないという筆舌に尽くせない恐怖のもとに過ごすことは残虐で
はないのでしょうか。国際社会から死刑の廃止の方向へのステップとして死刑執
行停止が求められていることを無視し、国際社会からの要請に真っ向から抗おう
とする日本の姿に大きな失望を感じました。

 国内人権機関
 国内では人権擁護法案の問題として議論されている問題ですが、国連のパリ原
則に沿って政府から真に独立した国内人権機関の設立を求める声が相次ぎました。
 アルジェリア、フィリピン、カナダ、メキシコ、イラン、トルコ、アゼルバイ
ジャン、カタール、スロバキア(難民認定に関する独立審査機関)(合計9カ国)
 お隣の韓国には国家人権委員会が政府から独立する形で設立され、そのメンバ
ーが今回のセッションにおける韓国政府に対する審査にも列席されていました。
日本政府は2002年に人権擁護法案が廃案になっているという説明を繰り返し
ただけでした。

 代用監獄と警察の取調の可視化
 今回の日弁連の加盟国への働きかけの中心課題は代用監獄と警察の取調の問題
でした。
 アルジェリア(取調)、ベルギー(代用監獄・取調)、マレーシア(外国人に
対する代用監獄における処遇)、カナダ(代用監獄)イギリス(代用監獄・取調)、
メキシコ(代用監獄の廃止と取調の可視化を求めた2007年拷問禁止委員会最
終見解の実施を求めた)、ドイツ(代用監獄・取調)(合計7カ国)
 とりわけ、ベルギーとイギリス、カナダ、ドイツの発言は包括的で、明確に警
察拘禁を短縮することと取調のモニタリングを求めるものでした。
 これに対する日本政府の答えは、国内での説明の繰り返しで、警察部内で捜査
・取調と拘禁の機能を組織として分離していること、取調の完全な可視化は捜査
官と被疑者との信頼関係を傷つけ、取調による真実の発見を困難にするというも
のでした。

 差別問題
 差別問題は多岐にわたり細かい分析はここではできませんが、女性や子ども(
非嫡出子)、外国人、外国人労働者、アイヌなどの国内の少数者、セクシャル・
オリエンテーションなど、あらゆるタイプの差別問題が取り上げられ、差別禁止
のための立法を求める声がありました。
 北朝鮮、マレーシア、カナダ、イギリス、フランス、スロベニア、メキシコ、
ブラジル、イラン、ドイツ、韓国、グアテマラ、アゼルバイジャン、ロシア、カ
タール、ルーマニア、ペルー
 このような差別の問題に対する日本政府の、問題別に例外はありますが、日本
国憲法を引用し、法的な差別はないという説明を繰り返すものが目立ちました。
法的な差別をなくすことは、社会における差別をなくすための第一歩に過ぎず、
事実として存在する差別を認めて、これにどのように取り組んでいくつもりかを
説明した方が、ずっと誠実な対応になったと思います。この点でも日本政府の説
明には大きな不満が残りました。

 従軍慰安婦問題
 今回、日弁連代表団が中心的な課題として取り上げたわけではありませんが、
大きな関心を集めている問題ですので、従軍慰安婦・戦時性奴隷制問題について
の審査の状況もレポートしておきます。
 従軍慰安婦という言葉を明確に使って言及したのは、北朝鮮、フランス、オラ
ンダ、韓国の4カ国です。また、国連の文書を引用する形でこの問題に言及した
のが中国です。従軍慰安婦問題についての政府の説明も従来の説明を繰り返した
だけにとどまりました。

 国連人権条約の選択議定書について
 また、日弁連がその批准を強く求めている、自由権規約違反の人権侵害の被害
者が規約人権委員会に対して、国内での救済手続きによって急さが図られなかっ
たときに、個人として救済を求めて通報すること定めている自由権規約の第1選
択議定書については、ポルトガル、アルバニア、メキシコの3カ国が批准を求め
ました。また、ルクセンブルグは死刑の廃止を定めている同規約の第2選択議定
書の批准を求めました。
 また、国際的な拷問禁止小委員会と国内の拘禁施設に対する独立査察機関が協
同して刑務所、警察留置場、入管収容施設、精神病院などの拘禁施設を訪問し、
その処遇の改善を求めていく国際・国内協同システムの構築を求める拷問禁止条
約の選択議定書については、イギリス、ルクセンブルグ、アルバニア、メキシコ、
ブラジルの5カ国がその批准を求めました。

 その他の拘禁問題
 今回の日弁連代表団として取り組んだ問題ではありませんが、監獄人権センタ
ーの事務局長を務めている私の個人的な興味から言いますと、次のような問題も
注目すべき点だと思います。
 イギリス政府が留置施設視察委員会の独立性の問題を取り上げました。またイ
ラン政府が刑務所医療と刑務所における拷問の問題(徳島刑務所の問題を指すと
思われます)を取り上げました。アメリカ政府は入管収容施設の問題を取り上げ
ました。またスロバキアが難民問題を集中して取り上げていたことも興味を引き
ました。

 UPR手続とその勧告の重要性
 
今回日本政府が審査の対象とされた、人権理事会による国連加盟国の人権状況
審査は、人権問題の専門家が審査を担当する条約機関による審査とは様相を異に
し、多分に政治的・外交的なプロセスとしての性格を帯びています。その審査に
おいても、条約機関が取り上げ、人権高等弁務官事務所の作成した国連文書のコ
ンピレーションに掲載されていても、どこかの政府代表が問題として取り上げな
ければ、当該国への勧告から外されてしまうと言う問題点も指摘されてきました。

 実際に参加し、各国の代表と接触して感じたことは、審査対象国の特定の人権
問題を取り上げて改善を勧告すると言うことは、国対国の外交関係も考えるとか
なりの決意と勇気がいるということです。そのようなプレッシャーの中で2−3
分にまとめられた各国のステートメントは、本国外務省とジュネーブに来ている
代表団との緊密な連絡の上で出されている、各国の重大な政治的な決断であると
言うことがわかりました。審査の前日に接触できたある代表団からは、「日本に
ついては事前質問は出したが、会場での質問はしないことに決まったよ。昨日会
えていればできたかも知れないのに、残念だったね」と言われてしまいました。
また、どこの国とは言いませんが、代用監獄について必ず質問すると事前に約束
していたのに、結局発言から落ちいていた国もあります。おそらく、会議の舞台
裏での様々な駆け引きがあったのでしょう。
 だからこそ、この場でみていて、同僚による審査(ピア・レビュー)の持つ政
治的なインパクトの強さを肌身に感ずることができました。6月の人権理事会で
採択される予定の勧告について、日本政府が拒否し続けることは、国際社会での
日本の地位を傷つけ、国益を損なうこととなるでしょう。発展途上国を含めて、
多くの国々がこの理事会から勧告されたことを受け容れ、努力をするというスタ
ンスに立つと思います。
 この人権理事会の人権審査(UPR)を、これまでの規約人権委員会や拷問禁
止委員会などの条約機関による勧告だけでは、なかなか展望が見いだせなかった、
死刑や代用監獄、国内人権機関、様々な差別禁止のための課題、個人通報制度や
拘禁施設に対する独立査察制度の構築などの諸課題を解決するプロセスの始まり
としなければなりません。
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【関連記事の紹介】

第1 審査前の記事

1 UPR審査関係記事
 東京新聞 - 2008年5月4日
【ジュネーブ4日共同】国連の全加盟国を対象に人権侵害の有無などを検証する国連人権理事会の普遍的審査(UPR)が、5日から2週間の日程で2度目の作業部会を開催、日本を含む16カ国が初めて審査対象国となる。 UPRは前身の人権委員会に替わり2006年に人権(リンク切れのため、以下はわからず)


2 AFP通信配信記事

 韓国・ソウル(Seoul)で行われた死刑制度反対デモで、絞首刑に処される囚人にふんした人権活動家たち(2007年10月10日撮影、本文とは関係ありません)。(c)AFP/WON DAI-YEON

【5月9日 AFP】日本弁護士連合会(日弁連、Japan Federation of Bar Associations)は8日、日本で死刑執行数が増加していることについて、国際世論とかけ離れていると政府を批判するとともに、執行一時停止(モラトリアム)を求めた。

 国内では過去1年ですでに13人の死刑が執行されている。5月から国連人権理事会(UN Human Rights Council)が日本の人権状況について普遍的審査(Universal Periodic Review)を行っており、日弁連は同理事会に宛てた提言の中で、死刑が以前にも増して広く適用されていることや適切な手続的保障の欠如に対し懸念を表明した。

 日弁連代表団の1人は記者団に対し、日本政府は、死刑廃止に向かう世界の動きに逆らっている、と述べている。(c)AFP
 

第2 審査後の記事
1 共同通信
死刑廃止など要求相次ぐ  初の日本への国連人権審査
 【ジュネーブ9日共同】国連人権理事会は9日、全国連加盟国を対象に国内の人権状況を検証する普遍的審査で、初の対日作業部会を開いた。日本政府が存続方針を堅持している死刑の廃止や、従軍慰安婦問題への誠実な対応などを求める声が各国から続出。傍聴していた日弁連や非政府組織(NGO)の関係者らは「予想以上の成果」と評価している。

 発言したのは42カ国。最も目立ったのは日本に死刑廃止を求める声で、フランス、オランダなど欧州諸国を中心に10カ国以上が要求。特に最近になって日本で死刑の執行、判決例が増加傾向にあることを懸念する国が多く、昨年12月の国連総会での死刑停止決議に基づいて死刑制度を「再考してほしい」(ポルトガル)などと迫った。

2008/05/10 08:05   【共同通信】


2 NHKオンライン 
欧州各国 死刑制度見直しを

5月10日 6時32分
国連の人権理事会は9日、日本の人権状況について審査し、ヨーロッパ各国からは、日本の死刑制度や、刑事事件の被疑者を拘置所ではなく警察の留置場にこう留する、いわゆる代用監獄制度を見直すよう求める声が相次ぎました。

国連の人権理事会は、加盟各国の人権状況をそれぞれ今後4年かけて審査し、報告書にまとめることにしており、9日行われた作業部会では日本が審査の対象となりました。この中では、イギリスが「死刑は人間の尊厳を踏みにじる行為だ」として、死刑制度を見直すよう求めたほか、刑事事件の被疑者を拘置所ではなく警察の留置場にこう留する、いわゆる代用監獄制度についても、ドイツが「被疑者の権利を脅かしている」と批判しました。これに対して、日本外務省の秋元義孝審議官は「国民の多数が、悪質な犯罪については死刑もやむをえないと考えている」と説明し、死刑制度を存続するかどうかはそれぞれの国が独自に判断すべきだという立場を示しました。さらに、いわゆる代用監獄制度についても、「拘束期間が限定されているなかで、取り調べを円滑に行うためには必要な制度で、被疑者の人権にも配慮している」と反論しました。日本に関する報告書はことし6月にもまとまる予定ですが、国連は去年、死刑執行の停止を求める決議を採択しているほか、いわゆる代用監獄制度に対する懸念も表明しており、今後両制度の見直しを求める国際的な圧力が一段と強まることも予想されています。


3 読売新聞
国連の人権審査、日本の死刑増加に懸念表明相次ぐ
 【ジュネーブ=大内佐紀】国連人権理事会で9日、日本を対象とする「普遍的定期審査(UPR)」が開かれ、死刑制度、従軍慰安婦問題などが人権侵害にあたるのではないかとの指摘が各国から相次いだ。

 UPRは、国連人権理事会が国連全192加盟国の人権状況を4年をかけて審査するという新しい制度で、今春から導入された。

 対日審査では42か国が発言を求め、特に欧州諸国から「最近、死刑執行が増加していることに強い懸念を覚える。死刑は非人道的だ」(ルクセンブルク代表)など、死刑制度の廃止を迫る声が相次いだ。

 従軍慰安婦問題については、北朝鮮、フランス、オランダ、韓国の4か国が、日本政府の対応が補償などの面で不十分だと批判した。中国は、日本の戦時中の問題には一切、言及しなかった。

(2008年5月10日19時55分  読売新聞)


4 時事通信
2008/05/10-06:36 従軍慰安婦問題への対処要請=国連人権理の対日審査で−北朝鮮など
 【ジュネーブ9日時事】国連人権理事会は9日、日本の人権保護状況を検証する作業部会を開いた。会合では、北朝鮮、韓国、フランス、オランダが旧日本軍による戦時中の従軍慰安婦の問題を提起し、日本政府に誠実な対応を求めた。
 これに対し日本政府は、「女性のためのアジア平和国民基金」(アジア女性基金、2007年に解散)を通じて元慰安婦への支援を行ったことなどを説明、理解を求めた。


5 毎日新聞
国連人権理事会:死刑執行停止を日本に求める
 【ジュネーブ澤田克己】国連人権理事会は9日、国連欧州本部で日本の人権状況を審査した。英仏など欧州諸国は日本が死刑制度を存続させていることを批判。10カ国以上が、昨年12月に国連総会で採択された死刑執行停止決議を受け入れるよう日本に求めた。また韓国と北朝鮮、オランダ、フランスの4カ国は、従軍慰安婦問題で日本政府が前向きな対応を取るよう求めた。

 審査は国連加盟国すべてを対象に人権状況を調べる「普遍的審査」で、日本が対象になるのは初めて。

 死刑制度への批判に対し日本は「死刑制度は日本では世論の支持を受けている」などと反論した。従軍慰安婦問題では、政府としても謝罪をしているという従来の立場を強調した。

毎日新聞 2008年5月10日 18時57分


6 日経新聞
国連人権理が初の対日審査、12カ国が死刑制度廃止など求める
 【ジュネーブ=市村孝二巳】国連人権理事会は9日、初の対日定期審査を実施した。国連加盟国による相互監視の枠組みに基づき、欧州を中心に12カ国が日本に死刑執行停止や死刑制度の廃止などを求めたほか、警察署の留置場を拘置所の代わりに使う代用監獄問題や従軍慰安婦問題などに関する日本政府の姿勢を問いただすなど、人権状況の改善を求めた。

 今年から始まった国連人権理の定期審査は4年に1回の頻度で全加盟国を対象に実施する制度。昨年12月の国連総会で死刑執行の一時停止を加盟国に求める決議が採択されたにもかかわらず、日本での死刑執行が増えている状況を踏まえ、死刑制度廃止を訴える英仏などが説明を求めた。

 日本政府は「国民世論の多数が極めて悪質な犯罪については死刑もやむを得ないと考えている」と指摘。「国連総会決議の採択を受けて死刑執行の猶予、死刑の廃止を行うことは考えていない」との立場を表明した。人権理は14日に今回の審査報告をまとめる。(20:36)


 
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