『法廷弁護技術』(Art of Trial Advocacy)とは? あなたは、裁判員裁判の弁護人になるのか? あなたは、ペリー・メイスンになれるか?

『法廷弁護技術』(Art of Trial Advocacy)とは?

あなたは、裁判員裁判の弁護人になるのか?

あなたは、ペリー・メイスンになれるのか?


 私は、周りから『三度の飯より好き』とも言われている日弁連会長選挙(注2)の活動に突入し、日々奮闘している。投票日(2月8日)まで、三週間を切り、1月19日(土)の札幌を皮切りに各地で公聴会が始まった。札幌では土曜日にもかかわらず、約50人の傍聴者があり、関心の高さ(特に法曹人口問題)(注1)が示されたと思う。その後、仙台(傍聴者は約30人)、名古屋(傍聴者は約40人)、大阪(傍聴者は約80人)、1月24日(木)広島(傍聴者は約20人)と続いている。高山俊吉さん!堂々と戦いましょう!


 さて、1月12日(土)から14日(月)まで、日弁連主催早稲田大学共催の『第1回法廷弁護指導者養成プログラム』が2泊3日(朝9時〜夜8時半まで)の缶詰め合宿で行われ、私もフルに参加し傍聴した。日弁連会長選挙の『戦略会議』などをサボってである。
 5年間のブランクがある私は、自分の勉強のためにひたすら傍聴させてもらった。
 合宿の一端をご報告します。

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            早稲田大学8号館301号法廷教室にて 実技演習の様子。
            弁護人が図面を裁判員6人、裁判官3人に見せているところ。


 当日の様子は、2008年1月13日付朝日新聞(←記事はこちらから)の素晴らしい記事でも紹介されており、是非お読み頂ければと思う。この日の夜NHKのTVニュースでも合宿の様子が放映された。

 この合宿は、弁護士になって10年未満の方約50人が、全国の各単位会(全国の弁護士会のこと)から1名ずつ代表として参加した。「単位会を代表している」というプレッシャーの中で、見る見るうちにそれぞれが個性を生かしながら、「ぐんぐん成長していく姿」は、実に感動的であった。
 弁護人は、裁判員、裁判官を『説得するプロセス』を問われているのである。

 プログラム・ディレクターの高野 隆弁護士(第二東京)及び同 後藤貞人弁護士(大阪)は、プログラムの冒頭で次のように語っている。

「むかしむかし、私が小学生だったころ、体育の授業でもよく宿題が出ました。縄跳び、跳び箱、鉄棒などの課題が出されると、みんな休み時間には一目散に校庭や体育館に飛び出していき、練習に励んだものです。私の場合、跳び箱と縄跳びには問題がありませんでした。しかし、鉄棒−−逆上がりには苦戦しました。どうしてもうまく行かず、泣きべそをかきながら父親の特訓を受けたものです。
 法廷弁護はたぶん逆上がりより難しいと思います。逆上がりに練習が必要だとすれば、法廷弁護にも練習が必要なはずです。鉄棒選手の演技を見たり本を読んだり講義を聴いたりしても、逆上がりができるようにはなりません。自分の手で鉄棒をつかみ自分の足で地面を蹴ること、それを何度も繰り返さなければ、けっして逆上がりはできるようにはなりません。同じように、自分の頭と自分の体と自分の声を使って何度も練習しなければ、法廷弁護の技術を身につけることはできません。
 今回われわれは世界最高水準の法廷弁護士たちの直接の指導のもとで法廷弁護の特訓を受ける機会をえました。しかし重要なのは、皆さん自身です。皆さんが自分の体と声で表現すること、それを繰り返すこと、今回の研修の目的はそこにあります。
 2009年春への道はここから始まります。それを切り開くのは皆さんです。  プログラム・ディレクター 高野 隆 」

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                 高野 隆 弁護士・早稲田大学法科大学院教授


法廷はエキサイティングです。法廷はドラマティックです。裁判員裁判で法廷はよりエキサイティングに、よりドラマティックになるでしょう。その法廷で、技術と情熱を傾けて被告人の権利と利益を守る、それがわたしたちの仕事です。
 どのような事件も、その事件特有の貌をもちます。そのため、刑事弁護は千変万化すると言われることがあります。それは正しくありません。すくなくとも、すべての弁護に共通する基礎的な技術は確かに存在するのです。そして、その技術の習得はわたしたちの仕事の基礎であり出発点です。
 その技術は学ぶことができます。習得することができます。料理界の未来のシェフはくる日もくる日も野菜を切っています。一流のシェフのあざやかな包丁さばきには若い日の修業が生きているのです。わたしたちも、おなじようにして技術を習得することができるはずです。これまで、その技術の習得はあまりにもなおざりにされてきました。技術を体系的に習得する機会はなかったし、また、それを教授する方法も確立されていなかったのです。しかし、裁判員裁判を目前にして、わたしたちは変わろうとしています。
 この研修は、あなたたちが技術を学ぶと同時に教える技術も学ぶのです。そして、この研修をうけたあなたたちが法廷弁護技術を全国に広めるのです。わたしたちは、そうなることを強く、強く願っています。
 きたるべき裁判員裁判の扉をひらくのはあなたたちです。
 きたるべき法廷はあなたたちのものです。
 わがくにの被告人はあなたたちを待ち望んでいます。   プログラム・ディレクター 後藤貞人」

  二人の狙いは、実際大成功であった。


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              早稲田大学8号館301号法廷教室における実技演習の様子。
       裁判長は、四宮 啓弁護士、右陪席裁判官は平山正剛日弁連会長等が演じている。

 
 NITA(National Institute of Trial Advocacy)より招聘された4名のスペシャル・アドバイザーであるウィリアム・ハント氏(マサチューセッツ州法廷弁護士)、バーバラ・バロン氏(ホフストラ大学ロースクール教授)、チャールズ・ブラウン(裁判官・元法廷弁護士)、マイケル・ケリー(NITA理事・プログラム・ディレクター)には、極めて熱心な指導をいただき、心から御礼を申し上げたい。参加された方は、皆同じ思いを抱かれているのではないだろうか。

 4名のスペシャル・アドバイザーによる、実践上大事な留意点の一部を紹介します。

(1)Don't argue. (議論しない)
(2)Give theme. (テーマを与える)
(3)Tell story. (ストーリーを語る)
(4)Personify your client. (依頼人に人格を与える)
(5)Be simle. (シンプルに)
(6)Start and end strong. (強く始まり、強く終わる)
(7)Use action words. (生きた言葉を使う)
(8)Tell jury what you want. (求めるものを裁判員に伝える)
(9)Be cognizant of the burden of boredom. (退屈さの負担を知る)
(10)Make yourself credible. (自身の信用を高める)

 4名のプロフィールは、下記よりご覧下さい。

 ●ウィリアム・ハント(William J. Hunt)
 ●バーバラ・バロン(Barbara Barron)
 ●チャールズ・ブラウン(Charles W. Brown)
 ●マイケル・ケリー(Michael A. Kelly)


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                 バーバラ・バロン氏と平山正剛 日弁連会長


 約50人の若き弁護士は、各地に戻り、『指導者』として様々な企画に取り組むだろう。この2泊3日の合宿で、『全国に種がまかれた』のである。エポック・メーキングな企画であり、参加者の作花知志弁護士(岡山)は、合宿の総括で、『来年以降も毎年企画して欲しい。』と発言し、大きな拍手を浴びた。『若さは素晴らしい!!』と心の底から思った。日弁連執行部にも感謝する。

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               合宿のまとめが行われた27号館 小野講堂にて。
                     作花知志弁護士(岡山)と。


 合宿当日配布された資料の一部を、高野 隆弁護士のご了解を頂き以下掲載する。大変参考になる資料なので、是非ご覧頂きたい。なお、資料文中の氏名は仮名である。

  【主尋問ドリル1】  絶対に誘導してはいけない(1頁)
  【主尋問ドリル2】  ループ・クエスチョン(1頁)
  【主尋問ドリル3】  証言を明確にするための図面等の利用(2頁)
  【主尋問ドリル4】  証人の記憶を喚起するための書面等の提示(2頁)
  【反対尋問ドリル1】 (2頁)
  【反対尋問ドリル2】 自己矛盾を示すための供述調書等の利用(3頁)

  当日の教材(百数十頁)は、日弁連のHP(会員専用)に掲載されています。

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                左から、平山正剛日弁連会長、後藤貞人弁護士、
             日弁連裁判員制度実施本部事務局長小野正典弁護士



《 わが国初の体系的弁護技術書!!》

 私も、『鉄棒の逆上がり』を自分でやりたくなったが、ここで、まさに全国の弁護士に必須必読の文献『法廷弁護技術』(日本弁護士連合会編 日本評論社 2007年7月 2800円 257頁)を紹介します。

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 この本は、高野 隆弁護士より2007年8月にプレゼントしていただいた。同封されていた書簡には次のように書かれていた。
 「この春から全国の弁護士会を飛び回って、『法廷弁護技術』の出張授業をしています。8月15日からは渡米して、NITA(National Institute of Trial Advocacy)の研修に参加してきます。裁判員裁判がはじまるまでに、日本の弁護士の間に、法廷弁護技術の基本的な考え方だけでも定着させよう、というのが目下の私の最大のmission(使命)です。」

 『自由と正義』2008年1月号120頁には、村井敏邦 龍谷大学法科大学院教授の優れた書評が掲載されており、この文献について絶賛されているので、以下一部紹介したいと思う。

・・・・本書は、裁判員制度の実施を念頭に置いた法廷弁護の技術を提供する実務書である。しかし、裁判員制度下の裁判に限らず、まさに『すべての刑事裁判の法廷活動』に必要な技術と哲学を開示するものであり・・・・・・刑事弁護で日本有数の弁護士を中心としながら、社会心理学者やアメリカのロースクール教授を加えている執筆陣も大変多彩で豪華であり、法律の専門家以外の読者にも興味深く、かつ専門的実践書であるにもかかわらず、読みやすい論稿が並んでいる。・・・・・・『共通説設例』による具体的な説明というのがユニークな試みであり、具体的なイメージを描くのに大変に役立っている。・・・・・情状弁護の章(12章)を設けている本書は、実践的に大いに役に立つであろう。・・・・・・」


 この本の目次及び『共通説例』は次のとおりである。

第1章  裁判員裁判と法廷弁護技術
      (高野 隆「裁判員裁判と公判弁護技術」『自由と正義』57巻5号66頁)
第2章  法廷弁護技術の基礎
      (マシュー・ウィルソン(河津博史訳)「効果的な法廷弁護−日本における市民参加型裁判の黎明」『自由と正義』57巻5号89頁)
第3章  説得の心理学
      (藤田政博「説得の心理学」『自由と正義』57巻5号78頁)
第4章  公判に向けて
      (山下幸夫「公判準備の技術」『自由と正義』57巻12号58頁)
第5章  冒頭手続(書き下ろし)
第6章  冒頭陳述
      (河津博史「冒頭陳述の技術」『自由と正義』57巻6号42頁)
第7章  反対尋問
      (秋田真志「裁判員裁判と反対尋問技術」『自由と正義』57巻7号43頁)
第8章  主尋問
      (高野 隆「主尋問の技術」『自由と正義』57巻8号48頁)
第9章  証人尋問における書面や物の利用(書き下ろし)
第10章 証人尋問における異議(書き下ろし)
第11章 最終弁論
      (四宮 啓「最終弁論の技術」『自由と正義』57巻9号47頁)
第12章 情状弁護
      (後藤貞人「裁判員裁判と情状弁護」『自由と正義』57巻11号43頁)
第13章 裁判員の選任
      (西村 健「裁判員選任手続の技術」『自由と正義』57巻10号49頁)

殺人未遂被告事件》 
 「公訴事実:被告人は、平成21年11月13日午前1時ころ、東京都新宿区市ヶ谷宝町36番18号アミーゴ宝町205号室鈴木誠方玄関前において、鈴木誠(当時45歳)を殺そうとして、用意してきた刺身包丁(刃の長さ約20.9センチメートル)で鈴木の左腹部を1回突き刺した。しかし、鈴木に止められたため、鈴木に約2週間の治療を必要とする腹部刺創の傷害を負わせただけに終わった。」


 私は、この本を私の事務所(吉峯総合法律事務所)の所員全員(私以外に弁護士7名)に1冊ずつプレゼントした。
 全ての弁護士にも、一人一冊ずつ購入して欲しいと思う。「わが国初の体系的弁護技術書」(滝井繁男弁護士・元最高裁判所判事)だからである。
 
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              若手弁護士を指導するチャールズ・ブラウン裁判官
             早稲田大学法科大学院3階教室にて。2008年1月12日


 四宮 啓弁護士は、合宿のまとめにおいて「この点が足りない・・・と言えばそうでしょうが、実践面でも変革する努力が我々は求められています。」との趣旨の発言をされたし、村井敏邦教授は、前掲の書評の中で次のように述べられている。「裁判員制度に対しては、実施を前にして弁護士の間でも冤罪を生むとか厳罰化に拍車をかけるなどの批判がある。・・・・・厳罰化を求める被害者の声が法廷に直接反映する制度が導入されたりする中で、裁判員制度が実施されることに、順調に船出するであろうかという危惧を感じない者はいないであろう。しかし、この危惧を払拭するのは、一にして弁護人の活躍いかんにかかっている。裁判官裁判が陥っていた調書裁判の弊害と専門家特有の偏見から刑事裁判を解放し、真に生き生きとした当事者主義を実現するには、現在の制度の下でも弁護人がいかに活気ある法廷活動を繰り広げるかにかかっている。・・・・裁判制度の下では、弁護人の活動はいっそう魅力的に展開される必要がある。事実認定における争いだけでなく、量刑をめぐる刑事弁護のあり方も問われる。・・・」

 最後になるが、先日行われた東京弁護士会の中のグループの一つである『期成会』臨時総会(注3)において、私は出席されていた高山俊吉弁護士に、「『法廷弁護技術』を読まれましたか。読んでどう思われましたか。」と質問したところ、「読みました。参考になります。」とのことであった。

 先進国では、日本以外は陪審、参審、混合型が既に実現しており、刑事裁判制度に対する市民・国民の参加は常識である。
 ところが、高山俊吉候補は次のように主張されている。「裁判員制度は廃止する。反対する理由は、市民を治安の担い手にかえるとんでもない制度だからである。裁判員の招集通知は赤紙であり、拉致動員である。」
 私の考えは、次のとおりである。「絶望と言われ続けた刑事裁判の改革につなげる。可視化を実現し、国民参加の刑事司法、被疑者・被告人の権利を守る刑事司法をうち立てるチャンス。裁判員裁判の実施を機に、国選報酬予算の大幅増額を目指し政党や関係省庁へ働きかけを行う。」

 日本の陪審制の「生き証人」であった、三井 明(故人、元刑事裁判官、家庭裁判所裁判官、日弁連・子どもの権利委員会委員)は、60数年振りの市民・国民の参加を高く評価されている(この点については、私のブログをご参照下さい。→http://yoshimine.dreama.jp/blog/99.html)。
 裁判員制度は、日弁連が粘り強く法務省、最高裁判所を説得し続けたからこそ、実現しつつあるのである。

 私は、高山俊吉日弁連会長候補を支持されている方々にも、日弁連のArt of Trial Advocacy の活動にも、是非加わられることを祈念している。なぜなら、高山グループには、優れた刑事弁護人は沢山いるからである(注4)


(注1) 宮崎誠候補の主張は次のとおりである。「増員のスピードについては、2010年を待つことなく、スピードダウンを含む諸施策の中で、速やかに解消を図る。ただし、被疑者国選の対応体制や過疎地の住民の方の期待についても十分配慮すべき。専門組織を直ちに立ち上げ、会外の方との幅広い意見交換に努めつつ、関連する諸問題を検討・検証し、提言の内容について議論する。スピードダウンについては、直ちに組織を立ち上げる。増員のスピードについては、今年の司法試験合格者発表までに、将来の適正な法曹人口については二年以内に具体的な提言を行う。」
 高山俊吉候補の主張は次のとおりである。「3000人に反対する。3000人増では、収入が減り、弁護団活動ができなくなる。戦前のように犯罪を犯す弁護士も増えるだろう。激増は弁護士への攻撃であり、結果市民が奈落の底に落ちていくことになる。3000人について、会員の総意は結集されていなかった。」
     
(注2) 拙稿 「夢に可能性を!」(『自由と正義』2006年9月号5頁) をご参照下さい。また、日弁連会長選挙については、こちらも是非ご覧下さい。→http://yoshimine.dreama.jp/blog/90.html

(注3) 『期成会』臨時総会は、2008年1月15日(火)午後6時から午後9まで開催されました。二人の日弁連会長候補者は、別々に約30分ずつ所信表明などを行いました。終わるとすぐに候補者には退席していただき、討論を行い、採決となり、27対2で宮崎誠候補を支持する決議がなされました。高山俊吉候補は5回目の日弁連会長への挑戦となりますが、これまでの日弁連会長選挙における『期成会』での採決は、毎回同じような票数差です。10年の間に5回も同じ選挙に同一人物が立候補するというようなことは、あらゆる選挙(国会、地方議会など)で、私は聞いたことはありません。確かに10年間ずっと同じ主張をし続けられること自体は立派だと思いますが、同一のグループから同一の主張をされている別の人物が立候補をする方が常識的ではないでしょうか。実際、見識のある立派な方が何人もいらっしゃると思います。

(注4) 高山俊吉選対ニュースNo.4には、次のように書かれています。「裁判員制度のぎまん 高山俊吉候補『裁判員制度はいらない!』 1月12日から三日間、日弁連執行部は全国の若手会員を東京に集め、『弁護技術』を特訓した。裁判員時代の弁護技術の指導者を養成するのだという。弁護人のレベルアップを狙うとは笑止である。『メモを見ながらの尋問は印象が悪い』、『裁判員の反応を見ながら尋問するように』・・・冗談言ってはいけない。裁判員裁判は、陪審裁判ではない。裁判官が圧倒的な優位をもって仕切る裁判員裁判の恐るべき実態を隠ぺいし、まるで陪審裁判が始まるかのような芝居がかった偽装工作多くの若手弁護士は、執行部のあざとさをとうに見抜いているのだ。」
 はたして、高山俊吉候補に過去投票した人も、同じような考えを持つのでしょうか?

 
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